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BaySpo 1491号(2017/06/23)掲載 |
世界経済フォーラムの「第4次産業革命センター」
ジェトロ・サンフランシスコ 次長 下田 裕和 |
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下田 裕和(しもだ ひろかず)
JETROサンフランシスコ次長。平成11年、通商産業省(現経済産業省)入省。IT、サイバーセキュリティ、バイオ・再生医療、ヘルスケア、サービス業等の産業推進担当を経て、2016年6月より現職。東京工業大学卒。 |
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ゴールデンゲートブリッジの南側にプレシディオというエリアがあります。元々米陸軍基地だったこのエリアは、ハイキングやマウンテンバイクのトレイルがある美しい公園となり、『スターウォーズ』を制作したルーカスフィルムなどが入るレターマン・デジタルアーツセンターや、玄人好みのウォルト・ディズニー・ファミリー・ミュージアムなども立地しています。
この地に、今年3月、世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)が「第4次産業革命センター」を立ち上げました。WEFとは、企業、政治、学者、その他の社会のリーダーたちが連携して、世界・地域・産業が抱える課題を掲げ、改善に取り組もうとする国際機関(本部はジュネーブ)です。1971年にスイスの経済学者クラウス・シュワブにより設立されました。スイス・アルプスのリゾート地ダボスで開催される年次総会(いわゆるダボス会議)は聞いたことがある方も多いと思います。ダボス会議では、2000名以上の選ばれた知識人、ジャーナリスト、グローバル企業経営者、各国首脳レベルの国際的な政治指導者といったトップリーダーが一堂に会し、国際紛争、健康、環境などの世界が直面する重大な問題について解決策を議論します。この他にも、WEFは、東アジアやラテンアメリカなど6〜8の地域会議や、テーマに応じたワークショップも開催しています。WEFの運営資金は1000社もの会員企業から集められています。会員企業の規模は産業や地域によって異なりますが、その多くは売上高が50億ドル超のグローバル企業です。どの会員企業も各業界や各国の中で中心的なプレイヤーであり、様々な産業や地域の将来を決定する上で主導的な役割を果たしています。
WEFが新設した第4次産業革命センターのミッションは、急速な技術の発展によって生まれる新ビジネスや私たちの生活の向上をできるだけ早く実現しよう、そのために背後に抱えるリスクや障害を最小限に抑えようというものです。例えば、高度な自動運転の車が普及した場合には、便利になる一方で新たな課題も出てくるので、規制の在り方も変わってきます。自動車メーカー以外のプレイヤーも交通システムの一部に参加することで、企業、個人、公的機関の責任分界点も変わってくるかもしれません。もしかしたら青信号で進むという考え方がなくなるかもしれません。社会がひっくり返るほどの自動運転の技術がいつ確立するかは不明ですが、来るべき時に備えた議論は今から進める必要があります。特に、安全重視が基本となる公的機関の立場に立てば、新たな技術によって利便性がいかに向上しようとも、リスクが計りきれない場合にはブレーキを踏みがちになります。今ある世の中の常識や商慣習も変わるかもしれません。インターネットの倫理観などを考えても、新たな世界に老若男女皆が適応するためには時間もかかります。柔軟な規制対応ができるか否かは、利用者の知識や考え方の育成状況に関係しています。新センターでは、こうした技術の社会実装をソフトランディングさせ、社会全体の利益を最大限受けるために、必要な課題と解決策について議論していくことにしています。
新センターで扱うテーマは、人工知能(AI)、IoT、国境を越えたデータ移動、民生用ドローン、自動運転、製造プロセス、Fintech、精密医療、海洋環境などです。今後、世界中から革新的な新興企業や有力企業、政府関係者、学者、NGO、技術者など約80名が勤務する環境を整備していく予定です。
新センターのアドバイザリーボードで委員長を務めるMarc Benioff(Salesforce社CEO)は、次のように言いました。「This global center will allow us to much better understand the impact we have on society and the positive role we can play」世界から集まった優秀な人達によってイノベーションがもたらされ、私たちの生活が変わり、その変わり方を円滑にするためにまた優秀な人達が集まる、そんなベイエリアで生活していることを、私たちは少し誇らしく思っても良いかもしれません。
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