牛や鶏、鴨などの細胞を使って、動物をと殺することなく食肉を生産する技術を開発するベンチャー企業が、投資家たちから注目を集めています。
4〜6週間で生産が完了
動物の細胞から培養肉を生産する技術開発を進めているのは、サンリアンドロ市に本社を置く「メンフィス・ミーツ(Memphis Meats)」。同社は「求めやすい価格のサステナブルな本物の肉の製造」を目標に、食用培養肉の商品化を目指しています。
精肉店やスーパーマーケットで販売される食肉が、動物の飼育、繁殖、と殺といった過程を踏み、生産牧場や加工工場を経て消費者に届けられるのに対し、培養肉の生産は同社の研究所内で行われています。培養の手順はまず、家畜の血清を採取し、次に、それに含まれる細胞の中から再生能力を持つ細胞を選び、さらに肉の風味、触感、香りに影響する細胞を採取。その後、その細胞の成長に必要な酸素、糖分、ミネラル分などを与え、バイオリアクターの中で培養するとのこと。肉の切り身の大きさにもよりますが、4〜6週間で培養が完了し、調理できる状態となるとのことです。
同社は2016年春に牛の培養肉を使ったミートボールやハンバーグを、今年3月には鶏と鴨の培養肉を発表しています。
「本物に近い風味」を実現
近年、卵の代わりに大豆を使ったマヨネーズや、藻類から作られたエビの代替品といった人工タンパクを開発するベンチャー企業もシリコンバレーでは誕生していますが、これらの人工タンパクは、ベジタリアンのための動物性タンパクの代替品として開発されました。対して、メンフィス・ミーツの培養肉は、動物性タンパクのみが含まれており、普段から肉を食す人が食べても違和感のない風味や触感を目指すものとなっています。この鶏と鴨の培養肉を使った料理を試食した人々も、「触感が通常食べている肉とは少し違っているものの、風味は本物に近い」とコメントしています。
畜産の環境への負荷も削減
同社は、心臓の専門医でもあるウマ・バレトル氏(CEO)と、幹細胞生物学者のニコラス・ジェノビス氏(CSO)によって、2015年に創立されました。家畜を育てるには、大量の飼料とそれを栽培する土地、水が必要となります。ある調査では、1ポンドの食肉を生産するのに10ポンドの穀物飼料、その飼料を栽培するために、5600万エーカーの土地、更に2400ガロンの水が必要とのこと。しかし、培養肉は動物を飼育しないため、土地、飼料、水はこれほどまでに必要とせず、より環境に優しい方法での食肉の生産が可能であり、バレトルCEOは、同社の技術を使って培養肉を生産すれば「必要となる土地は100分の1、水は10分の1に削減できる」と述べています。
その他、牛のげっぷには温室効果ガス(GHG)のひとつであるメタンガスが含まれており、米国で排出されるGHG排出量の9%が畜産と農業に起因しているといわれていますが、飼育される牛の数が減少すれば、おのずとGHG排出の抑制につながると期待されています。
既に2200万ドルの
資金を調達
同社の培養肉は、投資家から熱い視線を向けられています。同社はこれまで約2200万ドルの調達に成功していますが、資金調達を主導しているのはベンチャー投資企業大手のDFJで、穀物メジャーのカーギルのほか、個人投資家には英ヴァージン・グループのリチャード・ブランソン会長、マイクロソフトを創設したビル・ゲイツ氏などの著名人が名を連ねているとのこと。DFJ共同経営者のスティーブ・ジューベットソン氏は、「より良い世の中を作れる可能性と、投資機会としての可能性を両方兼ね備えた案件。こういう分野への機会を投資家たちは何年も待っていた」と述べています。
今後同社は、5年以内に商品化を実現、10〜20年で世界各国に供給する目標とのこと。そう遠くはない将来、皆さんもスーパーで普通にこうした培養肉を買っているかもしれません。
(執筆協力 : 高橋由奈)
(執筆協力:高橋由奈)
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