近年、自動車メーカーなどが自動運転車や自動運転バスの開発を進めていて、米国各地で公道での試験運転が行われています。こうした中、ローカルモータースはIBMの人工知能(AI)を活用して、障がい者や高齢者が快適に利用できる完全自動運転バス「オリー(Olli By Local Motors)」を開発しました。
車体などは3Dプリンターで製作
自動車製造のスタートアップ企業ローカルモータース(本社 アリゾナ州チャンドラー)が開発する自動運転車オリーは、幅2・05m、高さ2・53mの電動小型バスです。定員は12名で、車内に運転席はありません。車体や座席などは3Dプリンターで製作され、最高速度は時速40キロ、1回の充電で平均58キロ走り、事前に目的地や走行ルートを登録できるほか、専用アプリを使って遠くからでも車を呼び寄せたり目的地を設定できます。
車体には複数のセンサーや光学カメラ、衛星測位システム(GPS)が取り付けられていて、車体の周囲200mを360度監視しています。接触の可能性がある場合には、普通の自動車より10倍速く緊急停止するように設計されているとのこと。これらの安全装置に加え、管理センターではスタッフがオリーの走行を観察し、万が一の事態には迅速に対応できる運営体制を整えています。
車載AIと
コミュニケーションも可能
オリーには、IBMが開発したコグニティブ・コンピューティングシステム「ワトソン(Watson)」が搭載されていて、利用者はワトソンとコミュニケーションを取ることができます。コグニティブ・コンピューティングとは、コンピュータが自ら学習し、考え、瞬時にさまざまな情報源から大量のデータを統合し分析するシステムです。ワトソンは、人間の質問を理解し、それに対する答えや解決方法を様々な情報源から導き出すことができます。例えば、「食事をとりたい。どこに行けばよい?」と聞けば、ワトソンが周辺地域のレストランを調べ、推薦する。「そのレストランで夕食をとる」と返事をすれば、夕方から夜にかけての天気予報を教えてくれるのです。
ワトソンを搭載したオリーは、2016年6月にメリーランド州ナショナルハーバーで試験運転が開始されたほか、国内外の複数の都市でも試験運転の計画があるそうです。
AIと手話で会話できる可能性も
先進的な機能を備えるオリーですが、ローカルモータースは今後、さらに高度な機能を追加する予定があるそうです。
マサチューセッツ工科大学(MIT)が出版する技術雑誌「テクノロジー・レビュー」は、ローカルモータースが高齢者と障がい者が一層快適に利用できる機能を備えた、新しいバージョンのオリーの開発に着手していると報じました。それによると、「音や携帯電話のアプリを使って視覚障がい者を空席に誘導する機能や、座席のセンサーが空席の有無を認識し、空気に超音波を流して手や腕の皮膚を刺激し誘導する機能が追加される可能性がある」とのこと。
また同誌は、「IBMの担当ディレクターが、機械学習と画像認識能力を使うことで、ワトソン自身が手話を習得することも不可能ではないと述べた」とも報じ、「聴覚に障がいがある利用者のために、車内に設置されたスクリーンや利用者のスマートフォンを使って、手話でコミュニケーションをとる機能の可能性もある」と伝えています。
その他にも、オリーが前方のバス停で待つ車いすの利用者を認識し、自動的にタラップをおろして乗車させて、乗車後に車いすを固定する装置や、下車する際に忘れ物があれば知らせる機能などが検討されているとのこと。さらに、「走行中に急病人や保安上の問題が発見された場合には、自動的に緊急通報番号に連絡し、目的地を近くの病院や警察署に変更するよう設計に手を加える」とローカルモータースのプロジェクトマネージャーは述べています。
同誌によると、オリーの予定販売価格は25万ドルで、一カ月あたり1万〜1万2000ドルでリースできるオプションも設けられる予定とのことです。
(執筆協力/高橋由奈)
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