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BaySpo 1522号(2018/01/26)掲載 |
日本とシリコンバレーで拡大する落とし物防止タグ市場
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 樽谷 範哉 |
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樽谷 範哉 (たるたに のりや)
2001年JETRO入社後、シリコンバレー等でのインキュベーション事業立ち上げを担当。名古屋、トロント事務所、東京本部にてハイテク、製造業、スタートアップの世界展開プログラムに従事。2017年7月よりベイエリアにてイノベーティブな日系企業の世界展開をサポートしている。東京工業大学大学院修了。 |
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妻がまた財布をなくした。家族全員で探したが見つからない。財布をなくすと、お金の損失に加え、クレジットカードや運転免許証の再発行など、煩わしい手続きが待っている。考えるだけで憂鬱になるこの失態に、普段は楽天的な妻もさすがに落ち込んでいる様子だ。この半年で2度も財布をなくしたのだから、3度目もあるかもしれないねと娘と話している。
1度目に財布をなくした際に妻に勧めた商品があった。もう少し強く勧めるべきだったと後悔している。数年前から街で見かけることの多くなったクラウドトラッキング(※)による落とし物防止タグである。この落とし物防止タグは、2013年にシリコンバレーにあるスタートアップ「Tile」が、クラウドファンディングで2600万ドルを集めたことで一気に注目を浴びた。落とし物防止タグの仕組みはこうだ。小さなタグを鍵や財布、カバンなどの貴重品に予め取り付け、ブルートゥースによりスマートフォンでペアリングをする。音を鳴らしたり、スマートフォンで位置を確認することで取り付けた落し物を見つけることができる。また世界中の落し物防止タグユーザーとクラウドで繋がることで、見知らぬ人が落し物を見つけてくれクラウド経由で知らせてくれることもある便利な品物だ。価格は1個につき20ドル〜40ドル程度と比較的手頃で、米国シェア1位であるTileは既に全世界230カ国で累計1000万個も売り上げている。Tile以外にも、電池交換可能な「TrackR」やスロベニア生まれのスタイリッシュな「Chipolo」など、多くのスタートアップが同市場に参入し、活気のある市場となっている。
米国で拡大する落し物防止タグ市場であるが、実は日本でも急速に拡大している。主役はTileでもTrackRでもなく、日本発のスタートアップ「MAMORIO」だ。機能をできるだけシンプルに抑えた世界最小クラスの落し物防止タグ「MAMORIO」は、Tileよりもかなり小さく、2017年度には「Amazonランキング大賞2017」のAmazon Launchpad部門で1位を獲得している。従来のクラウドトラッキング機能に加え、公共交通機関や商業施設等の忘れ物センターから自動的に通知が受けられる「MAMORIO Spot」、プロによる発見支援サポートや紛失時に保証が受けられる「MAMORIOあんしんプラン」など、きめ細かいサービスを提供することで、MAMORIOフアンを増やしている。
絶好調のMAMORIOではあるが心配がない訳ではない。TrackRは既に2016年に日本に上陸、最大手のTileも2017年12月に日本で販売を開始した。Tileユーザーは日本では決して多くないが、積極的な販売キャンペーン等の実施により、ユーザーの拡大を狙っている。スタートアップは設立時から世界市場を意識してビジネスをしなければならない。Facebook, Amazon Echo, Tile, 世界市場で成功した企業は少し遅れて日本の市場にやってくる。その前に、世界に勝てる製品を出せないか、世界で通用するビジネスモデルを生むことはできないか。
ジェトロは世界で勝負する日本発スタートアップを応援するため、ジェトロ・イノベーション・プログラム(JIP)をシリコンバレーや中国の深セン、シンガポール、ドバイ等で現地アクセラレーターと協業して実施している。シリコンバレープログラムでは数多い応募の中から20社程度がブートキャンプに参加し、シリコンバレーで起業経験(M&A等のエグジット経験)のある米国人メンター4名から1週間程度の講義・メンタリングを受けた。投資家や潜在顧客へアプローチするために、「顧客の問題をどう解決しているか」「競合と比べて絶対的優位な価値は何なのか」などを徹底的に問い、ビジネスモデルを磨きあげる。最終的には30秒と4分間のピッチが完成する。ブートキャンプ後は、各企業にその分野に精通したメンターをマッチングし、シリコンバレーに来る前にスカイプ相談を受け、渡航時にFortune500の潜在顧客や投資家を訪問する。その後、クローズドのピッチコンテストやCVCを招いたセミナー、展示会等で世界展開を目指す仕組みだ。
MAMORIOも同プログラムを活用した企業の一つ。このプログラムのメリットは、メンターを通じて、シリコンバレーにある大企業や投資家にコンタクトすることで、自社の強みや戦略を冷静に見つめなおせるところだ。小さなMAMORIOは、大きなTileに対してどのように挑むのか。今後の彼らの米国での展開を期待したい。
(参考)シリコンバレーに勝ちに行く −MAMORIO CTO 滞在日記
https://us.wantedly.com/companies/mamorio/post_articles/79236
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