年末になると、「来年はどんな年になるだろうか?」が話題になる。2018年の日本は、「災」という漢字で表現されるそうだ。米国では漢字一文字で一年を総括する風物詩はないが、私なりにつけるとしたら「暴」だろう。暴風雨あり、暴力あり、暴言あり、乱暴な通商政策あり、数次にわたる株の暴落あり、という認識。
さて、2019年である。一層勢いを増す破壊的イノベーションを背景にシリコンバレー経済は活況だが、2019年もこの勢いは続くだろうか?
@シリコンバレーの相対的な地位は?
サンフランシスコ・シリコンバレーの家賃水準・人件費は異常で、技術者も企業も他の地域に移住する動きが顕著である。シアトル(WA)、デンバー(CO)、オースティン(TX)などが主な行先だが、東海岸でもニューヨーク(NY)やボストン(MA)など、俄かにイノベーションのハブが勃興(再興)してきている。
ただ、それはシリコンバレーの空洞化を意味しておらず、依然として層の厚い人材、抱負な資金、起業環境は他の地域の追随を許さず、断トツの求心力である。米国内のみならず、深?、ドバイ、バンガロール、テルアビブなど諸外国で注目を浴びるハブと比べても同じ。シリコンバレーはイノベーション界のメジャーリーグである。
Aテック企業をめぐる環境の変化は?
2018年はテック企業にとって多くの試練に見舞われた。Facebookの個人情報流出問題、AppleのiPhone Xの不振観測、Teslaの生産能力問題、会長の不可解な挙動、Uberのガバナンス問題、Googleの独禁法(抱き合わせ販売)問題、などシリコンバレーの影の部分を想起させる問題が連日のように起こった。
テック企業をめぐる規制は強化の方向にある。既にGDPRは適用されているほか、情報のオーナーシップを巡る包囲網は狭まり、独禁法も各国ともに厳しく適用する方針を示している。さらにデジタル課税をスタートする国もある。
規制強化の動きは2019年を超えて後退する要素はない。中国のプラットフォーマーの支配力拡大と相まって、収益性を低下させていくことが予想される。淘汰が進む可能性もある一方、制約要因がさらなるイノベーションの種にもなりうる。
BAIブームはいつまで続くか?
現在は第三次AIブーム(機械学習・深層学習がキーワード)の真只中にあり、シリコンバレーのイノベーションの主流は、AI及びそれから派生する自動運転、ビッグデータ処理である。
過去二度のAIブームは社会の期待値に技術の進展が追い付かなかったことで衰微した。期待値と技術水準の進化がドーミーを迎える前にシンギュラリティが到来するかどうかは微妙だ。深層学習型のAIを巡る要素技術はおおむね出来上がったが、正確性、効率性をさらにどれだけ上げられるかという勝負はまだまだ続く。
イノベーションのもう一つの波はヘルスケア分野(創薬、再生医療、精密医療、QOLなど)。まだまだ伸びしろが大きく、仮にIT系のイノベーションが数年のうちに鈍化するようなことがあっても、ヘルスケア分野はもう少し息が長そうだ。
C通商問題の先行きは?
2019年最大の懸念は米中通商問題の行方である。本年3月から顕在化した一方的関税措置とその報復合戦はますますエスカレートしている。中国製造2025の見直しへの着手が妥協に向かうサインとの観測もあるが、情報戦の域を出ていない。
発端は鉄鋼過剰生産問題であったが、より本質的には米国と中国との技術覇権争いである。いまや関税のみならず、安全保障の観点から、知的所有権保護措置はもちろん、投資規制、調達規制などあらゆる手段を動員し、サプライチェーンの分断も辞さない構えである。
投資規制により資本逃避を引き起こすリスクは小さくなく、人的規制による人材枯渇はシリコンバレーの活力に対する直接的な打撃となる。現大統領就任以来、東海岸や中西部で燃え盛っていた保護主義の波が、いよいよシリコンバレーにも及んできた。米中間のチキンレースが消耗戦を引き起こすのか、現実的な妥協に向かって手じまいをするのか、最初の節目は2月に迎える制裁期限の前後に訪れる。
D攪乱要因
以上触れたのは、一応想定されるシナリオだが、人知を超えた予想のつかない動きの方が、実のところより大きなインパクトを持つ。項目だけを挙げ、評価は控える。
●次期大統領選に向けたポピュリズム
支持率維持・向上のために、トランプ政権が何を持ち出すか?(通商問題の激化、米国に対抗する国・地域への軍事的威嚇、国内の分断など……)
●政権の安定性の見込み
大統領の弾劾はあるか? 大統領側近・政府高官の離反がどこまで進むか?
●対処能力を超える規模の自然災害の発生
地震、火事、渇水、暴風雨の発生は、シリコンバレーに直撃のダメージ。
2019年シリコンバレーは、「憂」「騒」「粘」という順に展開するというのが私の希望的観測である。
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