BaySpo 1574号(2019/01/25)掲載
世界経済フォーラムの「第4次産業革命センター」
ジェトロ・サンフランシスコ 次長 下田 裕和
下田 裕和(しもだ ひろかず)
JETROサンフランシスコ次長。平成11年、通商産業省(現経済産業省)入省。IT、サイバーセキュリティ、バイオ・再生医療、ヘルスケア、サービス業等の産業推進担当を経て、2016年6月より現職。東京工業大学卒。

 ラスベガスの巨大展示会CESが終わりました。今年は、製品そのものよりも生活に近い部分での人との接点、つまり使い方や生活の変化を説明する展示が増えたように感じました。自動運転車やドローンが日常生活の一部になった社会というのは、イメージするのが簡単そうで意外と難しいです。ベイエリアに住んでいると自動運転のテスト車はよく見かけるので少し実感できますが、ドローンは飛んでいる姿をほとんど見かけません。将来、ふと空を見ると何十機ものドローンや空飛ぶ車が往来する世界が来る? と言われても、心の準備はできていません。


 ドローンというのは無人航空機のことで、人が乗る空飛ぶ車とは分けて考えています。元々軍事用途で開発が進められてきたドローンは、標的、偵察、武器のイメージがある人もいるかもしれません。本格的に民間利用されたのは、1980年代に開発されたヤマハ発動機の農薬散布用無人ヘリコプターが世界初だと言われています。20キログラムもの荷物を持ち上げるラジコンです。農薬散布用ヘリは日本国内で普及し、世界のドローン市場の大きなシェアを日本企業が取ることになります。その後、スマホの普及によるバッテリーや加速度センサ、GPSモジュール等の軽量化・低価格化を背景に、2010年代には中国のDJIが空撮用途で人気を得て、今では台数ベースで約60%のシェアを取っています。他方、同社のドローンは売上高では約25%のシェアで、まだまだ多くのメーカーが参入・競争しています。


 ドローンの市場規模は急速に伸び、調査会社によると、2018年には世界で約5000億円、日本で約860億円と推計されています。面白いのは世界と日本とで用途に違いがみられる点です。世界市場では空撮が50%以上で、続いて測量、検査、農業の順となりますが、日本市場では、農業が50%以上で、続いて測量、検査、空撮の順となります。ドローン市場は、将来爆発的に伸びることが予測されつつも、時期については調査会社ごとに異なります。鍵となるのは、操縦者に見えない場所(目視外)でも安全に飛べるようになるタイミングです。一般住民の上空を安全に目視外飛行するためには、技術開発に加えて、規制や標準仕様の整備が必要で、その対応に時間がかかります。イノベーションの恩恵をいち早く、最大限受けるためには、安全を確保しつつ実社会へのテスト導入を進めていくことが効果的です。各国ともアジャイルでの柔軟な規制運用を模索しているのですが、実はリスクを負うことが苦手な日本も結構頑張っていたりします。


 もともと日本は、農業用散布用ヘリなどで航空法の例外許可承認について、珍しく規制当局の柔軟な対応を実践してきた経験があります。今の日本の環境整備を3つご紹介します。まず、昨夏、福島県南相馬市に福島ロボットテストフィールドというインフラ点検、災害対応、物流などに使われるロボット・ドローンの実験場(合計約50ヘクタール)を整備しました。ここで企業の技術開発と規制当局の勉強、国際標準化の下地作りをします。次に、先月、経済産業省と国土交通省が共同でドローン実用化のロードマップを作りました。企業が実用化計画を公表する例は多いですが、規制当局が具体的な課題と時期を示したのは世界初です。そして、鍵となるドローンの目視外飛行や第三者上空飛行を可能にするための官民検討会を開催し、ロードマップの実現を着実に進めます。こうした環境整備を通じて、安全性確保とイノベーション推進の両輪を加速させます。


 ピタゴラスイッチというテレビ番組をご存知でしょうか。日用品で作られたからくりの道をビー玉が巧みに転がりながらゴールへ向かうのですが、その予想を超える動きについつい「うぉー」と声を出してしまいます。この番組は、私たちが普段の生活で気づいていない、さまざまな不思議な構造や面白い考え方、法則を教えてくれます。一見無駄な出っ張りも、実はそれはエンジニアが考え抜いて生み出した大きさ、角度、位置の出っ張りで、このおかげで部品がずれることなく組み立てられる重要な機構だったりするのです。


 聞いてしまえば単純なことでも、そこに答えがあるかわからない中での試行錯誤は果てしない戦いです。それを企業と規制当局が一緒に取り組む環境はできました。老後にドローンがお気に入りのラーメン屋さんからつけ麺を運んでくれることを夢見つつ、今という実用化の過渡期に生じるリスクを正しく理解していこうと思います。

有澤保険事務所

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