BaySpo 1613号(2019/10/25)掲載
ウォルトディズニーワールドのデジタルトランスフォーメーション
ジェトロ・サンフランシスコ 次長 下田 裕和
下田 裕和(しもだ ひろかず)
JETROサンフランシスコ次長。平成11年、通商産業省(現経済産業省)入省。IT、サイバーセキュリティ、バイオ・再生医療、ヘルスケア、サービス業等の産業推進担当を経て、2016年6月より現職。WEF第4次産業革命センターフェローを兼任。東京工業大学卒。

  先日、10年ぶりにウォルトディズニーワールドを訪れて、年甲斐もなく感激してしまった。単なる付属ツールだと思っていたMy Disney Experience(アプリ)とMagicBand(ウェアラブルデバイス)の投入が絶妙だった。My Disney Experienceで私の旅の情報はほぼ全て一括管理できた。フライト情報、ホテル宿泊、FastPass+(アトラクション優先入場券)の取得、レストランの予約などだ。そして、MagicBandは、ホテルの鍵や入場チケットとなり、テーマパーク内でキャストが撮ってくれた写真の受取や、レストランやショップの支払などを瞬時にしてくれる。ちょっとした違いだが、クレジットカードよりも支払いが早いので先を急ぐ気持ちを満たしてくれる。これまで携帯のキャッシュレスアプリは割り勘くらいしか使わなかったので私にとっては新鮮な使い道だった。
  そして、特筆すべき機能はFastPass+の追加や変更がアプリ内でできることだ。タイムゾーンごとに取得・キャンセルするので、ちょこちょこチェックしていると奇跡的な時間帯のFastPass+が取れたりする。わらしべ長者のように、より望ましいFastPass+に変更できるようになったのだ。FastPassが紙チケットの時には時間帯は進むだけで売り切れたら終わりだった。
  なんて便利なんだろう、と使いまくりながら、ふと自分の行動がすべて丸裸にされていることに気づく。何時に来場したか、どんなFastPass+を取得・変更したのか、食事はどこで何を食べたか、お土産は何を買ったか、私の楽しそうな画像とともにディズニーに蓄積されていく。もしかしたらMagicBandでもっと細かくテーマパーク内の移動チェックがされているかもしれない。
  しかし、そんな不安もつかの間、このツールを使わないなんてありえないことに気づく。FastPass+を使いこなすとより多くのアトラクションに乗れる、行きたいレストラン(メニューを含めて)を事前予約すると長蛇の列に並ばなくて良い、(ホテルのデータが紐づくことになるが)ディズニー公式ホテルに宿泊すると60日前からのFastPass+が取得できるなど、貴重な時間を充実させるための圧倒的なメリットの前に、情報提供に不満はなかった。
  実は、こうしたプライバシーの問題は、ツールの導入前から指摘されていた。でも、フェイスブックやグーグルのようにデータの収集・使用の方法について当局の査察を受けていないのは、物理的に区切られたテーマパーク内でのことであり、訪れたユーザーの体験をより充実させるためにデータが使われるからであろう。実際MagicBandの利用でアトラクションの待ち時間を30%削減できるという。このデータ駆動型の顧客関係は自然である。
  ウォルトディズニー社は、売上594億ドル、営業利益157億ドル、従業員約20万人の多角経営企業だ(2018年)。テーマパーク以外にも、テレビ放送、映画、グッズ製造販売、ゲームなどを手がけ、ディズニーのブランドを基軸に相乗効果を生む戦略で年数パーセント着実に売上を伸ばしている。テーマパークではリピート率が重要なため、毎年、新たな施設やアトラクション、イベントを増やしている。「Disneyland will never be completed.」という ウォルト・ディズニー氏の言葉に象徴される。テーマパークのデジタルトランスフォーメーションに10億ドルを投資し、今後のさらなる進化の基盤を作った。収集された大量のデータから、積極的に進めるスタートアップとの協業で新たなサービスを生み出していくであろう。 
  近年、自動運転やAI(人工知能)などのテクノロジーが私達の生活に実装されつつある中で、インフラを含めたスマートシティのあり方がよく話題に上る。テーマパークという空間でユーザー体験を最大化しようとするアプローチは、スマートシティの設計にも通じるところがあるように思う。ユーザー視点でサービスを最適化し、得られるベネフィットとリスクのバランスでユーザーがそのサービスの利用を選択し、結果的に必要なデータが集約や活用される都市の設計である。もちろん、テーマパークと日常生活はまったく違う次元の話なので簡単に比較できない。課題も多様でステークホルダーも多い。ただ、ウォルトディズニーワールドが「The Happiest Place on Earth」というビジョンを掲げ、日々ステップアップし、その空間に積極的に人も金もデータも集まるような好循環を生んでいることは、今後の社会を創っていく上で参考になる部分があるのではないだろうか。

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