「日本の大企業って変わってきたね」。最近、米国スタートアップから言われた一言だ。ジェトロは米系スタートアップの日本進出をサポートする過程で、パートナー候補として日本企業を紹介することが多い。冒頭の一言は、日本企業の意思決定が早くなったとの意見が聞かれるようになったのだ。以前は、米系スタートアップを日本企業に紹介した後に、PoC(=Proof of Conceptコンセプト検証)まで1年以上かかったこともあり、「もう興味がないのかと思ってたよ。」と言われることも。しかし、ここ1、2年でオープンイノベーションに真剣に取り組む日本企業が増えてきたこともあり、シードステージやアーリーステージ(スタートアップ企業の成長ステージのうち、起業した直後の時期を指す言葉)の企業からも、日本市場への進出や日本企業との協業を模索する動きが活発化している。
大企業のベイエリアイノベーション 拠点数は何と日本がトップ
ベイエリアイノベーション活動を行う日本の大企業は急速に増えている。サンフランシスコに拠点を置くイノベーション・アドバイザリー・サービス会社マインド・ザ・ブリッジ(MTB)が発表したレポート(注)によると、ベイエリアにイノベーション拠点を持つ大企業222社のうち、日系企業は52社と全体の約25%を占め、米国(39社)、フランス(22社)、ドイツ(20社)などを抑えて首位となった。
大企業のイノベーション活動とはどういう活動を指すのだろうか。同調査では機能を4つに分けて、@イノベーションアンテナ(ローカルエコシステムの情報収集)、Aイノベーションラボ(インキュベーション、アクセラレーション、戦略的協業を目的としたラボ施設)、BR&Dセンター(プロトタイプや研究者獲得を目的とした研究開発)、CCVC(出資機能を兼ね備えたコーポ―レートベンチャーキャピタル)をあげている。
日系大手企業の進出が増加してきた2015年以降、その多くは@イノベーションアンテナ(情報収集)を目的にしており、スタートアップとの協業が進まない状態にあった。しかし最近では、日系企業の活動が単なる情報収集ではなく、出資や契約など、本社を巻き込んだかたちの実態を伴ったビジネスに変化してきている。
同調査によると、外国企業別のCVCとしてのベイエリア地域への出資実績(2015〜2018年)において、出資金額で中国(160億ドル)、ドイツ(58億ドル)などを抜いて、日本(249億ドル)が1位だった。出資金額は、ソフトバンクによるウーバー・テクノロジーズへの出資などの大型案件が牽引したとみられるが、取引件数でも中国(158件)、英国(90件)などを抜いて、日本(202件)が1位となった。同調査結果はベイエア地域において、スタートアップとの協業手段として出資する企業の中で、日系企業の存在感が大きいことを示している。
北米に広がるエコシステム
ベイエリアでの日系企業のプレゼンスが飛躍的に拡大した今、世界各国なかでも北米に広がるエコシステムに目を向ける日系大企業も多い。ジェトロはそんなニーズにお応えするため、北米7カ所の事務所において、情報発信、日系大企業によるリバースピッチイベント、アクセラレーター・VCといったキープレーヤーの個別紹介など、現地エコシステムにアクセスする際のお手伝いを積極的に展開している。
既存産業に技術を掛け合わせたいわゆる「ハイフンテック(−tech)」が盛んなニューヨーク、製薬・医療などのライフサイエンスクラスターが存在するボストン、ロジテック(物流XIT)など製造業周りのスタートアップが多く存在するシカゴ、AR/VRなどデジタルメディア産業が急成長するロサンゼルスなど、北米各地では特徴あるエコシステムが台頭してきている。中でもトロントは、AIを中心として産業が多様化しているエコシステムの一つ。トロントの街の中心に存在する北米最大の都市型イノベーション・ハブ「MaRS」では、医療分野を中心に、クリーンテック、フィンテック、5G・AI・自動運転などプラットフォーム技術も盛んだ。スタートアップだけでなく、コーポレート(大企業)、ベンチャー・キャピタル、再生医療やAI・がん研究センターなどの研究機関が14万平方メートルの敷地に集結するそのアクセスのしやすさも魅力の一つだ。
北米や世界のエコシステムに繋がりたい場合は、是非、現地のジェトロに立ち寄って欲しい。
(注)調査対象は、フォーブス・グローバル2000とフォーチュン500が対象。少なくとも1人以上のフルタイム駐在員をイノベーション目的に設置している拠点が対象。同記事に関する内容、各地のエコシステムに関する記事はジェトロ「ビジネス短信」でもお読み頂けます。
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