BaySpo 1627号(2020/01/31)掲載

働く親の強い味方 「子供向けUber」

ジェトロ・サンフランシスコ 伊藤 実佐子

伊藤 実佐子(いとう みさこ)
1999年日本貿易振興機構(JETRO)入構。東京本部では調査部門に18年在籍し、米国の通商政策や経済動向などに係るレポートを執筆。その後、対日投資部に異動し、外国企業の日本進出(対日投資)支援を担当。2019年12月より現職。米国企業の対日投資支援、PRを担当。University of Pennsylvania, Fels Institute of Government修了。

 着任して1カ月。ベイエリアでの生活・仕事の立ち上げと並行して頭を悩ませるのが、1月から一緒に暮らす次男の放課後問題である。当初、12歳未満は一人で過ごさせてはいけないという当地の社会慣習に戸惑った。つまり小学4年生の息子は放課後、自宅で一人で宿題をしながら母親の帰りを待つことが許されない。習い事に行かせるにしても足がない。どうすればいいか頭を抱える私を見かねて、同僚がワーキングマザーに人気の便利なサービスを紹介してくれた。通称「子供向けUber(Uber for Kids)」。なんともシリコンバレーらしいサービスである。

不文律に縛られる親
 カリフォルニア州で子供を一人きりにしてはいけない最低年齢を定めた州法、ガイドラインはない。米国内の3州(イリノイ州が14歳、メリーランド州が10歳、オレゴン州が8歳、2018年12月時点(注1))で最低年齢を明記する事例はあるが、そうした規定がない場合、米連邦保健福祉省(HHS)のガイドラインや地域の児童福祉に関連する機関からの情報などを参考にすることになる。 周りの子育て中の親に聞くと、たまに一人で留守番させるという現実派がいるものの、12歳という不文律を厳守する人が大半。Nextdoorなどの地域コミュニティーサイトでのやり取りを読んでいても、ティーンエイジャーの子供を自宅で見守るシッター、あるいは習い事の送迎を募集する親の投稿であふれている。電車、バス、自転車などを駆使して小学校低学年から子供を学校、習い事へと通わせることが一般的な日本人の視点からすると若干過保護に感じるが、違法ではないにしてもネグレクトや児童虐待だとしてご近所さんに通報されることを恐れ、シッター探しに乗り出すことになる。

アプリでドライバー/シッターを手配
  シッターをウェブサイトで検索し手配する仕組みは、10年以上前からCraigslistやSittercity、Care.comなどが普及している。親が不在の間、自宅で子供と過ごすサービスを依頼することが一般的だが、子供の年齢が上がるにつれて習い事や外出の予定が増える。こうした送迎需要を捉えた企業がカリフォルニア州を発祥に、ここ10年で続々と誕生し、働く親のニーズを満たしている。日本でも「キッズタクシー」「子育てタクシー」といった名称で複数の事業者が参入している分野ではあるが、依頼、調整、支払いといったすべてのプロセスをアプリで完結できるビジネスモデルがいかにも西海岸発祥のサービスらしい手軽さで、「子供向けUber」と称されるのも納得だ。


  サンフランシスコ/ベイエリアでは、Kango、HopSkipDrive、Zumの強豪3社がしのぎを削る。いずれの企業も、創業者は子供を抱える母親で、自身が経験した放課後の送迎の苦労を起業の要因とする。そのため、いずれのサービスも、ドライバーとなるためには運転歴、犯罪歴といった厳密な身辺調査は当然とし、車の使用年数、子供に接する仕事の経験が一定年数以上あること、応急処置の研修を受けていること、対面での面接を済ませることなどきめ細やかなチェックを課すことで、安心・安全を前面に打ち出す。加えて、KangoやZumはドライバーがそのまま子供を在宅で見守るシッターサービスも提供する。他都市でも各社が独自性を出して競い、例えばニューヨークではカープールサービスに限定したgokid、デトロイトでは警官、消防士、退役軍人といった経歴を有するドライバーが運転するサービスを売りにするBubblなど、子供を預ける親の不安を少しでも解消するサービスが次々と誕生している。


市場拡大の期待
 実際に子供を預かるドライバー/シッター側はどのようにこうしたサービスをとらえているのか。フルタイムでKangoのドライバーを務める35歳のサラ(仮名)に、この仕事を始めた理由を尋ねてみた。彼女は、もともとUberのドライバーとして運転していたが、大人の乗客で怖い思いを経験したことをきっかけに最近はこの子供向けの運転に比重を移してきているという。サラによれば、「子供向けのサービスの場合、毎回同じドライバーの方が子供が安心するので、リピーターを獲得しやすい」らしく、ドライバー/シッター側からしても、固定客を獲得して安定収入を得やすいという経済面でのメリットがあるという。  このように多忙な親を支えるだけでなく、ドライバーの多様な働き方を可能にするサービスに市場拡大の可能性を感じ、各社とも順調に資金調達を重ね、サービス対象地域も拡大している。サービスを利用する側も提供する側も、ますます働き方やライフスタイルの多様化が進む中で、身近なチャイルドケアの分野における「as a service」化の進展は必然の流れでもあり、今後も注視に値する。


(注1)U.S. Department of Health & Human Services https://www.childwelfare.gov/pubs/factsheets/homealone/

有澤保険事務所

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