新型コロナウイルスの影響で、全米で多くの外食産業が苦戦を強いられる中、ベイエリアではフードテック市場が大きな盛り上がりを見せ、改めて注目されている。フードテック産業は残念ながら日本国内ではまだ黎明期にあるが、サンフランシスコを中心に広がる食品市場のイノベーションへの関心の高さは、コロナ後の社会変化を見据える上で、多くの日本企業にとっても重要な示唆を含んでいる。
ベイエリアでは 身近なフードテック
サンフランシスコの大手スーパーの肉売り場に並ぶmeatless meatやplant-basedといった新しい「肉」、ミルクや卵の棚にも置かれた植物性由来原料の商品は、当地ではもう見慣れた光景だ。コロナ禍の在宅勤務ではアプリ経由でスーパーやレストランからのデリバリーを多用するなど、ベイエリアで「フードテック」に触れない日はないと言える程、日常生活に浸透している。
フードテック市場と一口に言っても、代替肉などのフードサイエンス分野、ビッグデータを用いたスマート農業分野、外食デリバリー分野、食品リサイクル分野など幅広く、飲食に関わるあらゆる行為とテクノロジーを掛け合わせた技術・サービスを包含する成長著しい分野である。2019年に世界全体で216億ドル、2020年上半期も105億ドルの投資が集まることが見込まれ(ベンチャーキャピタルのAgFunder調べ)、米国内でも既に多くのユニコーン企業が誕生している。投資額のうち35%が米国企業向けとされ、元来、食のトレンドに敏感なベイエリアがその中心として成長を牽引している。
ベイエリアを代表するフードテック企業として、古くはレストランのオンライン予約サービスのOpen Tableが有名だろう。その後、2000年代〜2010年代半ばにGrubhub、Instacart、Postmates、DoorDashといった食料品やレストランの配達サービスを担うアプリケーションが続々と誕生し、急速に普及した。近年の盛り上がりは、2019年5月に新規上場(IPO)したBeyond Meat(但し、本社はロサンゼルス)やImpossible Foodsといった植物性代替肉がけん引する。バイオテクノロジーの発展により、素材そのものからイノベーションを生むことが可能となったことが大きい。エンドウ豆からミルクを作るRipple Foods、合成肥料の代替物を開発するPivot Bioなども注目を集める企業だ。
特に、コロナ禍において、従来の食肉サプライチェーン分断の懸念、健康的な飲食への関心拡大、非接触への配慮など、新しい日常が市場の拡大を後押ししている。垂直農法のPlentyや自動運転配達サービスのNuroなど、新たな需要を取り込んだビジネスも活況を呈している。
日本発フードテック企業への関心の高まり
フードテック市場に熱い視線が集まる中、世界的にも健康食として人気の高い「和食」を抱える日本のフードテック事情への関心も高まりを見せている。この点、日本では精進料理に代表されるように、健康に配慮した植物性の食材の利用が歴史的にも深く食習慣に溶け込んでいるため、これらを必ずしも「フードテック」と銘打ってアピールすることは少なかった。しかし、最近では日本国内でもフードテックへの関心が高まっており、海外展開を模索する企業も増えている。こうした状況を踏まえ、ジェトロでは10月、日本のフードテック市場の現状と特徴的な企業を紹介する目的で、サンフランシスコ市の外郭団体であるGlobalSFなどと協力してオンラインイベントを開催した。日本の伝統的な食材である大豆、おから、こんにゃく、野菜やお茶に独自の加工を施して付加価値をつけた製品や、機能性食品などを製造する日本企業(※)が登壇し注目を集めた。参加した米フードテック企業経営者からは、「日本で80年代に健康飲料で優れた企業があったことを覚えている。現在はインドや欧州のフードテック市場が活発で注目しているが、これからの日本企業の展開が楽しみだ」といった期待の声が聞かれた。フードテックのメッカであるサンフランシスコで、日本発フードテック製品が店頭に並ぶ日が待ち遠しい。
※登壇した6社は左記の通り。ジェトロ・サンフランシスコ事務所を通じて紹介も可能。
Cuzen Matcha(cuzenmatcha.com)、DAIZ(www.daiz.inc)、富士フイルム(www.fujifilm.com)、アイル(vegheet.com)、ナカキ食品(www.nakakifood.com)、OKM(okara-la-life.com)(cuzenmatcha.com)、DAIZ(www.daiz.inc)、富士フイルム(www.fujifilm.com)、アイル(vegheet.com)、ナカキ食品(www.nakakifood.com)、OKM(okara-la-life.com)
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