自然災害にいかに備えるか、いかに被害を最小限に食い止めるか。知識、経験は国・地域を問わず共有できる。災害が多発する時代において、防災・減災にテクノロジーを最大限に活用する取り組みは、日米で関心を集めている。
自然災害の多いカリフォルニア
ベイエリアで生活を始めるまで意識しなかったが、カリフォルニアは自然災害が多い。2020年は山火事の影響でオレンジ色に染まった空が記憶に新しいが、2019年は山火事に加えて豪雨、暴風、地震の被害が大きかった。米連邦緊急事態管理庁(FEMA)によると、連邦災害宣言をカリフォルニアが発出した件数は、記録がある1953年以降の累積では最も多いテキサスに次ぐ2位だが、2000年以降で見ると263件となり、テキサスの1・4倍を記録した(注1)。要因は火災が最多で、洪水、暴風雨、地震と続く。地震は州内でほぼ毎日起きているとされ、また、840マイルにおよぶ州沿岸部は常に津波の脅威にさらされている。
こうした自然災害に対しカリフォルニアでは、さまざまな技術、システムの開発に取り組んできていることは日本と変わらない。東日本大震災から10年目の節目を迎えた3月11日、ジェトロではスタンフォード大学アジア太平洋研究センター(APARC)と協力し、当時の経験や教訓を共有する目的のオンラインセミナー「東日本大震災から10年を経て」を開催(注2)。日本とカリフォルニアそれぞれから防災・減災の最前線で活躍する識者に登壇頂き、日米で多くの視聴者を得た。登壇者の一人であるカリフォルニア州知事室危機管理局(CalOES)のロリ・ネズーラ副局長から、同局が米地質調査所(USGS)、カリフォルニア大学バークレー校と共同開発した地震通知アプリMyShakeや、州民が居住地の災害リスクを確認できるMy Hazards Toolといったサービスが紹介された。本セミナーにビデオメッセージを寄せたエレニ・クナラカス副知事からは、太平洋を挟んで向かい合う日本とカリフォルニアが防災・減災に協力して対処し、一層関係を強化することに期待が寄せられた。
防災テック・スタートアップの活躍に期待
自然災害に対応する技術・サービスは、日本では「防災・減災テック」と呼ばれることが多い。英語ではResilience-as-a-Service(RaaS)という表現が最もしっくりくる印象だ。使途が防災に係る課題解決であれば、Climate-tech、Clean-tech、Mobility-as-a-Service(MaaS)などに分類される技術、あるいはドローン、衛星、画像解析といった分野も含まれると言えるだろう。気象、地形、インフラ、人の移動などから得られるさまざまなデータと機械学習やAIを組み合わせて被害を予測する、あるいは行動計画を立てて減災に貢献するテクノロジーへの期待は高まる一方である。
CalOES以外でも、テクノロジーの活用に積極的に取り組んでいる事例は多い。ニューサム知事主導で2019年には、山火事対策に有効な技術を持つ企業と州政府との協業が発表された。その一社であるTechnosylvaは、植物の生育状況、地質、気象などのデータを元に山火事の進路を予測するサービスを構築し、2020年夏の山火事で、早速、最前線の消防士に情報を届けた。他にも、州エネルギー委員会(CEC)が2020年10月、PG&Eなどの脆弱な公共設備を補完し得る先端技術を持つスタートアップ28社に15万ドルずつ補助金を出し、防災・減災分野のプレーヤーを増やす取り組みを始めた。特許申請中のカメラをドローンに載せて公共設備の遠隔点検を可能とするソフトウェアを開発するTolo、山火事の影響を受ける可能性が高い送電線にセンサーを取り付け配電網の状態を分析するinRG Solutionsなど、実証段階を経て、実用化が待たれる技術を州を挙げてサポートしている。
防災テックと言えば、Facebookは2014年から、自然災害が発生した際に安否確認に利用できる災害情報センター機能を提供している。同社が収集するデータを分析して災害対応に貢献するData for Good構想も、防災・減災へのインパクトが大きい。ベイエリアを代表するスタートアップとしてはOne Concernが有名だ。既に日本法人を立ち上げ、損害保険ジャパン日本興亜と戦略的パートナーシップを組み、災害による被害の最小化を目指すサービスを提供している。2019年からは、地震や洪水の被害を大きく受けた熊本市での実証事業で協働している。
いつ起こるか分からない、しかし、近い将来に起きるであろう災害に備え、太平洋を挟んだ日本とカリフォルニアが防災テック分野で協業・連携できれば、これほど心強いことはない。
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