BaySpo 1696号(2021/05/28)掲載

サンフランシスコ発 データ・ガバナンスの最新状況

ジェトロ・サンフランシスコ 中西 友昭

中西 友昭(なかにし ともあき)
2000年通商産業省(現 経済産業省)入省後、大臣官房、経済産業政策局、資源エネルギー庁等のポストを歴任した他、内閣官房に出向して成長戦略の取りまとめを担当。2020年11月に、ジェトロ・サンフランシスコ事務所次長に就任し当地の産業調査を担当。WEFフェローとしてデータ・ガバナンスの議論に参加。東京大学法学部卒、ノースウエスタン大学ロースクール修了。

 World Economic Forum(WEF)という名前の国際組織をご存知だろうか。WEFの名前だけ聞くと、もしかすると、パンダのマークのWWF(世界自然保護基金)と何か関係がある組織かと思ってしまう方がいるかもしれないが、毎年1月のダボス会議を開催している国際組織と言われれば、聞いたことがある方もいるのではないか。
 WEFは、政界、ビジネス界、および社会における主要なリーダーと連携し、世界、地域、産業のアジェンダを形成することをミッションに、1971年にスイスのジュネーブで設立された国際組織である。先ほどのダボス会議も、正式にはWEFの年次総会のことであり、1年の始まりに、世界、地域、産業のアジェンダを形成する目的で毎年、スイスのダボスで開催されている(今年は、コロナ禍によりバーチャル開催)。
 その上で、まだ当地でも知名度は高くないかもしれないが、WEFは、スイスの本部とは別に「政府、企業、市民社会、専門家との連携を通じ、進化するテクノロジーを統御し、社会課題を解決するために必要なルールづくりと実証を推進する官民プラットフォーム」として、「第四次産業革命センター」という拠点を、2017年に、イノベーションの中心地であるベイエリア(サンフランシスコ市内)に設立している。
 オープンイノベーションを推進するJETROサンフランシスコ事務所は、第四次産業革命センターの設立当初から、同センターとイノベーション促進の観点から共同研究を行っており、その関係で、事務所次長が第四次産業革命センターのフェローを兼務することとなっている(筆者は二代目)。
 前置きが長くなったが、今回は、当地のビジネスにも密接に関係してくる、第四次産業革命センターでの取組を紹介することとしたい。

データ・ガバナンスこそ
第四次産業?命の最重要課題
第四次産業革命センターでは、現在、社会の様々な課題(例えば、気候変動への対応や病気の予防)の解決に向けて取り組んでいるが、その中でも最重要課題と言って良いのが、「データ・ガバナンス」と呼ばれる分野で、筆者もフェローとして本分野を担当している。
 そもそも「データ・ガバナンス」と聞いてもピンと来ない方も多いと思われるが、背景を含めて簡単に言うと、次の3点に集約できる。
@第四次産業革命と呼ばれる技術革新が急速に進み、経済のあらゆる事象がデジタル化していく中で、経済を活性化させる源はデータである一方、その取扱いルール(例えば、プライバシーやセキュリティーに関するルール)は国ごとに多様で、ときに国境を越えたデータ流通の障壁となり、社会全体の利益が損なわれる場合がある。
Aそこで、2019年のダボス会議において、日本から提唱した「信頼性のある自由なデータ流通(Data Free Flow with Trust)」の考え方を基に、データ流通・利活用促進に向けた枠組み(「データ・ガバナンス」)に関する議論が、今や世界中の機関・国々で行われるようになっている。
Bその中で、WEF/第四次産業革命センターでは、a:国境を越えた自由なデータ流通、b:個人・企業・都市間の自由なデータ取引市場(Data for Common Purpose Initiative, DCPI)、c:規制・ルールのアップデートによる信頼の再設計、といった観点から、「データ・ガバナンス」の検討と実装を進めている。

個人・企業・都市間の自由なデータ
取引市場の創設に向けて
 筆者が、「データ・ガバナンス」の議論の中で注力して取り組んでいるのが、自由なデータ取引市場の創設に向けた議論(DCPIプロジェクト)である。
 このプロジェクトは、2020年12月に、日本を含む10カ国の政府をはじめ20カ国から、50以上のグローバル・パートナーが参加する形で始動したもので、信頼性と公平性を備えたデータ利用を加速させることで、データの価値を解き放ち、第四次産業革命時代におけるイノベーションを促進することを目指している。
 昨年末に開始したプロジェクトであるが、世界中の関係者(政府、民間企業、NGO、アカデミア)と何度も議論を重ね、今年の4月には、DCPIとしての初めての白書(Data-driven Economies: Foundations for Our Common Future)(※)も公表したところである。
 自由なデータ取引市場の議論はまだ緒に就いたばかりであるが、経済のデジタル化の中で、あらゆる人々、企業が関係する極めて重要なテーマである。だからこそ、特定の国や組織だけの議論任せにせず、当地の企業関係者の方々にも是非、関心をもっていただき、この議論に参加していただくことを期待したい。

(※)詳細はURLを参照
https://www.weforum.org/whitepapers/data-driven-economies-foundations-for-our-common-future

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