BaySpo 542号(2003/11/14)掲載
アルコールで発電するポータブル燃料電池

ジェトロ・サンフランシスコ・センター 中山 亨

中山 亨
1959年、東京生まれ。1984年、東京大学大学院工学部機械工学科を終了後、通産省に入省。電子機器の輸出審査、通商白書の執筆、プラスチックのリサイクルなど幅広い行政を担当。92年から1年間、南カリフォルニア大学でハイテク技術の技術移転に関する調査研究に係わった後、93年から97年には、日米半導体通商摩擦、半導体・IT関連技術開発プロジェクトの立案などを担当。98年から3年間、大臣官房秘書課で職員の人事を担当をした後に、2001年6月より現職。

 前回は、燃料電池自動車の開発を巡る官民共同プロジェクトとして、カリフォルニア燃料電池パートナーシップの現状について書いた。今回は、より現実的に携帯電話やラップトップPCの市場を狙ったポータブル燃料電池について書いてみようと思う。

 ポータブル燃料電池は、大きさは通常のバッテリーと変わらず、従来のリチウムイオン電池やリチウム水素電池よりも圧倒的に寿命が長い。しかも、自動車用の燃料電池が、インフラの問題や安全性の問題を解決するのに今しばらく時間がかかりそうなのに対して、こちらは早ければ2年以内に消費者の手に届きそうだ

【携帯機器の電力ニーズ】
 パソコンや携帯電話などの電子機器の多機能化は留まるところを知らない。パソコンにDVDドライブのような新機能が付けば消費電力は高まり、一方で、WiFi技術の普及によりパソコンをモバイル環境で、即ちバッテリーで長時間使用したいというニーズも高まっている。

 現在主流のリチウムイオン電池をパソコンに使った場合、普通は数時間しか使用できない。数時間という連続使用時間は、出張の多いユーザーやオフィス外で働くことの多い営業マンには明らかに不十分である。私自身も、飛行機の中でパソコンを広げて原稿を書くことが多いのだが、目的地に到着する前にバッテリー切れになることがほとんどだ。

【ポータプル燃料電池】
 そこで登場するのがポータブル燃料電池だ。自動車用の燃料電池では水素を燃料として、空気中の酸素と結合して水を生成する際に発生するエネルギーを電気として取り出すが、ポータブル燃料電池ではメタノールを燃料として、やはり空気中の酸素と反応して水と二酸化炭素を生成する際のエネルギーを電気に変える。

 燃料としてメタノールが選ばれるのは、エネルギー効率が高く生産コストが安いことも一つの理由だが、液体のメタノールは簡単なカートリッジで供給可能なので水素よりも取扱が易しいことが大きな理由だ。

 ポータブル燃料電池の寿命は、充填する燃料の量の設計次第だが、ラップトップPC用で8〜12時間、携帯電話用で3〜4週間と想定されている。しかも、ありがたいことに普通のバッテリーと違って、燃料切れになっても電源を切らずに燃料カートリッジだけを交換すれば、そのまま続けて使用できる。

【バッテリーとハイブリッドで使う】 
燃料電池の大きな欠点の一つは、瞬間的に大きなパワーが出せないことである。例えばラップトップPCを起動するためにハードディスクを駆動する場合のように一時的に大きな電力を要する動作には、従来型のバッテリーの方が適している。

 これに対しては、従来型の二次電池と燃料電池を組み合わせて、ハイブリッドに使用するという方法が提唱されている。定常的には燃料電池で発電しつつ、一時的な需要には二次電池に蓄えられた電力で対応するという考え方だ。

【関係企業】
 
東芝、サムソン、モトローラ、NECなど主要なコンピュータメーカーは各社ともポータブル燃料電池の開発に力を入れている。東芝とNECは、ポータブル燃料電池対応のラップトップPCを2004年に発売する計画を持っている。

 アメリカではネア・パワー・システム(ワシントン州)、A123システム(マサチューセッツ州)、MTIマイクロ・フューエル・セル(ニューヨーク州)等約35社がポータブル燃料電池やそのための部品を開発しており、シリコンバレーでもマウンテンビューにあるポリフューエル社が燃料電池用の膜(メンブレム)を開発している。

 これまでメディアの関心は自動車用の燃料電池に集まっていたが、インフラの整備も含めて解決すべき課題の多い自動車用に先立って、電子機器用のポータブル燃料電池が市場化することは非常に良いことだろう。まず、比較的リスクの小さい製品に新たな技術を応用しながら、生産技術を向上させ、コストの低下を進めるというのは、これまで多くの新技術が歩んできた王道だからだ。

 コーヒーショップでパソコンに向かいながら、自分はコーヒーを飲み、パソコンにアルコールを飲ませる、という姿が見られるかも知れない。

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