BaySpo 602号(2004/01/16)掲載
揺れるVoIP事業者への規制

〜従来の電話事業者と同規制を適用するか否か〜

ジェトロ・サンフランシスコ・センター 坂本 弘貴

坂本弘貴 (E-mail: sakamoto@jetrosf.org)

 大学卒業後、損害保険業界に従事し、2000年1月に渡米、サンフランシスコ州立大学にてMBAを学ぶ。2002年3月よりジェトロにて米国の産業・技術動向の調査に携わり、また同会のU.S.-Japan Business Incubation Centerにて、日本発ベンチャー企業の米国進出を支援する。


VoIP(Voice Over Internet Protocol)は、インターネットを利用して音声通話を可能にする技術で、従来の電話網を使用しない。VoIP事業者は非常に安価な通話サービスを提供しており、近年米国内でもその利用者が拡大している。しかし、そのサービスの規制をめぐって、特に2003年後半から米国各州で本格化。現在、米連邦通信委員会にその議論の場が移され始めている。

【加州は従来の電話事業者と同じ規制を適用】

 2003年9月、カリフォルニア州当局はVoIP事業者に対し、従来の電話事業者と同じ規制及び規則に従わなければならないという決定を下した。そして同州公益事業委員会は、州内でVoIPサービスを提供する6企業に、2003年10月22日までに電話事業者免許取得のための申請手続きをするように通知した。同州で電話事業者として登録すると、緊急電話サービス(米国は911)の提供、過疎地などへの電話サービス提供のための基金への寄付、そして電話網へのアクセス料金の支払いなどが要求されるようになる。

 しかし、該当VoIP事業者6社は期日を過ぎた現在も、同委員会の要求に応えておらず、電話事業者としての登録を拒否する姿勢を貫いている。そのうちの1社である8x8社は、米連邦通信委員会にVoIP事業者に対するいかなる州レベルの命令を凍結するように嘆願。同社は州委員会の一方的な決断を批判し、同委員会との話し合いの場を作りたいと述べている。

【VoIPはデータ転送サービスか?】

 VoIP事業者の主張は、VoIP技術は従来の電話サービスと全く異なり、データ転送サービスであるため、従来の電話事業者を対象とした規制下には陥るべきではないというもの。実際、この点が一番の議論の的であることは間違いない。なぜなら、州当局はインターネット上を行き来するデータを管理する権限はもっていない。よって、VoIPがデータ・サービスと解釈されれば、VoIP事業者が電話事業者としての規制を受ける必要がなくなるからである。

 現在のところカリフォルニア州公益事業委員会は、登録を拒否したVoIP事業者6社に大して、直ちに法的手段をとるつもりはないとしている。実際、前述の決定を下したにもかかわらず、同委員会の理事及びメンバー間でもVoIP事業者への規制について意見が未だに割れているとのこと。

 【ミネソタ州では、VoIP規制反対の判決】

 カリフォルニア州以外でも、VoIP事業者をめぐる規制の是非が問われている。ミネソタ州の公益事業委員会は2003年8月に全会一致で、同州でVoIP事業を展開するボナージ社(本社:ニュージャージー州)に対し、電話事業者免許の取得と事業料の納入、及び緊急電話網への対応を命じた。また、同年9月にはウィスコンシン州の公益事業委員会が、同様に8x8社(本社:カルフォルニア州)のVoIPサービスに対し、既存電話事業者と同じ規制に従うべきだという旨を通達。同委員会から事業認可を受けない限り、ウィスコンシン州内の利用者から発生する同社の全ての請求書は無効であると通達した。

 ところが10月に入り、ミネソタ州連邦裁判官はボナージ社の主張を擁護、VoIP事業者と現行の電話事業者との違いを支持する画期的な判決を下し、同州公益事業委員会が、同社に電話事業者免許取得を強要するのを禁じた。この判決では、ボナージ社などのVoIP事業者は技術的に、電話サービスの提供ではなく、情報サービス(インターネット・アクセスのサービスと同義)を提供しているという見解を示した。これは、技術発展のためにも情報サービス事業者を規制しないという、連邦議会の政策を優先させたもので、有る意味で連邦議会に今後のVoIP事業者についての判断をゆだねた判決であったともいえる。

 今回のミネソタ州の判決は同州のみの摘要ではあるが、VoIP事業者と他の州当局は、この判決の内容にとても注目していた。ボナージ社はこの判決を、同社とVoIP技術にとっての重要な勝利だとコメントしている。この判決は今後、他の州にも大きな影響を与えると思われる。

【連邦レベルの判断が必要】

 インターネットを利用するVoIP技術の通話サービスは、長距離電話も国際電話も関係無く、既存の電話事業者よりも低料金で同じサービスを利用者に提供する。この技術が、現在の電話網に取り変わっていく可能性は非常に高く、実際に米国でもその利用者数は拡大の一途をたどり、既存電話事業者にとっても無視ができない存在になっている。もはや、このVoIP事業者への対応は州レベルでなく、連邦レベルの統一の判断が必要な時期に達しているといえる。こうした背景から、米連邦通信委員会では、2003年12月からVoIPについてのフォーラムを開き、この問題に正面から取り組みことを始めており、今後の議論の発展が注目される。

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