BaySpo 606号(2004/02/13)掲載
大手バイオ企業アムジェン社の成長戦略

ジェトロ・サンフランシスコ・センター 田中 一史

田中 一史
東京生まれ。1990年ジェトロ入会。海外調査部アジア大洋州課、マニラ・センター調査部、「世界は今」(日経CNBC等)の番組ディレクターなどを経て、2002年4月、サンフランシスコ・センターに広域調査員として着任。アジア経済関連を中心に著書、論文多数。

 バイオ医薬品業界最大手のアムジェン社。今後の成長戦略のため、同社は全米最大のバイオ産業クラスターのベイエリアに頻繁に足を運び、同地域のバイオ企業との関係構築を模索している。

【ベイエリアでPR会合を開催】
 
アムジェン社は80年創業のバイオファーマ企業。2003年の売上高は約50億ドル、会社時価総額約810億ドル、会社時価総額による世界薬品企業ランキングでは6位に位置する。

 アムジェン社と言えば、無名のバイオテクノロジー企業から世界の大手製薬企業に仲間入りしたことで業界の誰もが知る超有名企業である。同社は最近、ベイエリアのバイオテック企業のCEOらを集めて度々ミーティングを開いているという。ずばりその目的は、“アムジェン社は良き(ベンチャー企業の)パートナーである”とのPR。ここで言うパートナーの意味とは、バイオテック企業が保持する薬品の開発パートナー、薬品のインライセンス、そして買収企業の探索までをも含む。

 同社のような注目を浴びる企業が、PR的意味合いの強い会合をわざわざベイエリアで開いているのはなぜか。

【2薬品に依存した収入構造】
 
同社の売り上げの内訳をみると、EPOGEN (透析施行中の腎性貧血治療剤)、NEUPOGEN (がん化学療法施行時の好中球減少症治療剤)と呼ばれる2製品がほとんどの売り上げを占めている。確かに同社は、業界で言う“ブロックバスター”(年に10億ドル=約1000億円以上の売り上げを持つ薬品)を有する企業であるが、穿った見方をすれば、同社の収入はこれら2つの製品だけに支えられている。

 同社は世界に誇る売り上げを持つ薬品会社に成長を果たしたが、薬品企業には売り上げを年に約15%は伸ばしていくといった期待が市場にはある。そのため、同社では新薬に向けた研究に多額の資金をつぎ込み、EPOGENに続くブロックバスター候補を追及しているが、現在その候補がなかなか見えてこないのが現状である。そのため、業界インサイダーの間では、同社の薬品創出力に疑問を持つ声がある。

 こうした薬品創造力不足を解消するために、他のバイオテック企業とパートナーを組むことにより、同社のパイプライン(臨床試験段階の薬品群)を満たしていくという、いわば大手製薬企業が行っている路線に一層力を入れていくことが同社の今後の成長戦略ともいえる。冒頭のベイエリアのバイオテック企業CEOらとの会合もこうした戦略の流れを汲むものである。

【クラスターの圏外にいる危機感】
 同社はカリフォルニア州ロサンゼルス市の北にあるサウザンド・オークス市にあり、バイオテックの集積地でない場所に立地している。

 実は、同社にとってこうした立地上のデメリットがあることは、想像以上に問題が大きかったようだ。そのきっかけとなったのが、2003年にジョンソン&ジョンソン社がバイオテックベイにあるサイオス社を22億ドルで買収を決めた際に、同社にはその打診さえなかったことである。つまり、この手の情報がクラスターの圏外にいることで入ってこなかったのである。

 また、同社が開発した薬品は、「バイオ・ロジックス」と呼ばれるたんぱく質製剤であり、大手製薬メーカーが主力としている低分子化合物の薬品を開発した実績はない。製薬業界における現在までの主なブロックバスターは低分子化合物薬品であり、たんぱく質製剤は製造コストが非常にかかるといったデメリットがある。そのため、低分子化合物薬品開発を目指すバイオベンチャー企業はパートナー企業として同社を候補に入れていない企業も目立つ。

【薬品会社の立地戦略】
 
では、アムジェン社のように、ブロックバスター後、バイオファーマ企業が薬品企業として生存するためにはどうしたらいいのであろうか。そのテーマの1つに、企業の立地戦略がある。企業自体が大きくなれば、必然的に1社で広大な敷地を要求されるため、いわゆるクラスターの圏外に企業を設置せざるを得ない場合が出てくる。その場合の解決策として、クラスターの近辺にリエゾン・オフィスを設置するのがベストチョイスだろう?こうした動きは、欧州薬品企業の間にもでてきており、米国内のクラスターに欧州企業の名を目にする。

 また、バイオベンチャーとして成長し、ブロックバスターの開発が成功したからといって、大手企業の仲間入りを果たしたといえるだろうか。そこには大手企業間の薬品インライセンスの競争が待ち構えている。大手企業として発展したからこそ、常にベンチャー企業とのネットワークと情報が必要になっていくのが大手企業に発展したアムジェン社にとって大きな発見であったようである。

 今後、いかに同社がバイオベンチャーコミュニティにアクセスし、企業を発展させていくのか注目されよう。

有澤保険事務所

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