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BaySpo 614号(2004/04/09)掲載 |
中台の半導体ファンドー企業が米国で特許紛争
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 田中 一史
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田中 一史
東京生まれ。1990年ジェトロ入会。海外調査部アジア大洋州課、マニラ・センター調査部、「世界は今」(日経CNBC等)の番組ディレクターなどを経て、2002年3月、サンフランシスコ・センターに広域産業調査員として着任。
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世界最大の半導体ファンドリー(受託生産会社)、台湾積体電路製造会社(以下TSMC)と、2004年3月にニューヨークと香港で株式上場を果たした中国の半導体ファンドリー会社、中芯国際集成電路製造有限公司(以下SMIC)は、両社の進出先である米国で特許侵害等の是非を巡って、激しい攻防戦を続けている。
【TSMC、新証拠を提出】
事の発端は、TSMCが昨年12月19日、SMICが同社の元エンジニアの採用などを通じて同社の知的財産に係る機密情報を不正に入手したとして、サンフランシスコ地方裁判所に提訴したことによる。同社が、台湾あるいは被告の企業が属する中国ではなく、サンフランシスコ地方裁判所に提訴したのは、米国の特許に侵害していることを前提に、・両社とも米国の株式市場(ニューヨーク証券取引所)に公開していること、・同社およびSMICの全米拠点がシリコンバレーに立地していること、・本国・地域の法律で裁かれるよりは、米国の法律に基づき裁かれる方が公平な判断が下される、との思惑があったとされる。
こうした状況の中で、当初、両者は、和解に動くとの観測が一部で流れていたが、2月17日、SMICは、原告の訴えは、企業秘密(トレードシークレット)の不正流用に当たらず、むしろ企業間競争を阻害するアンフェアな主張だと、原告の訴えを却下した。
これに対して、2004年3月23日、TSMCは新証拠があるとして、同裁判所に証拠の提出を行った。TSMCの広報部によると、裁判所にはSMICの元従業員の宣誓供述書をも提出したという。
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それによると、SMICの元従業員は、SMICの0.18μmプロセス技術の90%をSMICの技術をコピーしたと供述、さらに別の元従業員は、プロセス技術がTSMCから来たことを社内ぐるみで隠蔽しようとしたことを供述した。
こうしたTSMCの証拠証言に対して、SMICは、翌24日、裁判所が判断を下す前に、TSMCが公然と同社に不利な主張を述べるのは遺憾であるとの声明を発表、SMICは4月9日までに応訴を行う予定である。
【中国企業への牽制か】
今回の裁判の大きな特徴は、既述のとおり、原告や被告が属する国・地域で裁判は起こさず、米国で起こしていることが挙げられよう。その背景の一つに、中国の経済法制度等が整備されていないことが指摘されるものの、中国企業がグローバル企業として米国の株式市場に公開を果たし、0.18μmプロセス技術という技術的に見れば、一世代前の技術、但し、半導体ファンドリーとしては受託生産の主流技術を使って台頭してきていることは業界第1位のTSMCのみならず、ライバル企業にとって中国企業が脅威になりつつあることをも示唆している。
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そういった意味で、業界第1位のTSMCが業界第5位のSMICを提訴したのは、特許を侵害して(可能性のある)グローバル市場の展開を図ろうとする中国企業を今から牽制しておきたいといった思惑も見え隠れする。本紛争に対して、3月25日付のニューヨーク・タイムズ紙は、“Chip Makers Exchange Barbs In Corporate Espionage Suit”と題して、チップメーカーが企業スパイ訴訟を巡って中傷合戦を繰り広げていると報じた。
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その中で、バンク・オブ・アメリカ・セキュリティーの半導体アナリスト、マーク・フィッツジェラルド氏は、「今回の裁判は、中国の半導体企業が自社によるR&D努力を増すべきとの警告が含まれている」と見ている。
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なお、米国において中国企業が特許侵害で訴えられるのは、最近の大きなケースでは、米通信機器大手のシスコ・システムズ社が、2003年1月、中国最大の通信機器メーカーである華為技術有限公司が同社ソフトウェアを不正コピーおよび特許を侵害したとして、テキサス州東部地方裁判所に提訴したことが記憶に新しい。本裁判については、2003年10月3日、マーケット・セグメンテーションの棲み分けと両社が協力関係を築くことで和解が付いた。
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