BaySpo 618号(2004/05/07)掲載
中米中通商閣僚会議で関係改善が進む
〜無線LAN暗号化規格の無期限延長〜

ジェトロ・サンフランシスコ・センター 田中 一史

田中 一史
東京生まれ。1990年ジェトロ入会。海外調査部アジア大洋州課、マニラ・センター調査部、「世界は今」(日経CNBC等)の番組ディレクターなどを経て、2002年3月、サンフランシスコ・センターに広域産業調査員として着任。


 中国に対する関心は、シリコンバレーのハイテク企業の間でも年々高まっています。シリコンバレーでも中国市場の可能性を論じる話しはこれまで多々ありましたが、中国では卸売り・小売業等への参入規制もあり、どちらかというと現象面では、輸出指向型の生産拠点設置を目指した投資が主流でした。しかし、最近の米国の関心事は、いかに中国に市場を開放させ、米国企業の利権を確保するかが名実共の喫緊の課題となっています。そういった意味で、4月21日、ワシントンDCで開かれた米中通商閣僚会議では、米中双方が歩みおり、大きな前進が見られた会議として注目されます。

【無線LAN暗号化規格の無期限延長】
 米中通商閣僚会議とは、正式にはU.S.-China Joint Commission and Trade(JCCT)と称し、米中間の通商問題を政府間レベルで協議する場として1983年に設立されました。

 今回で15回目を迎える今会議には、米国側から、エバンズ商務長官、ゼーリック通商代表部(USTR)代表、中国側からは、呉儀副首相兼衛生相らが参加しました。

 今会議の焦点は、米国側にとっては、中国が6月1日から導入を予定していた独自の無線LAN暗号化規格の無期限延長を促すことや、知的財産権の保護強化を実行させるための同意を得ることにありました。前者については、会議の場で6月1日の導入を見送りすることで合意。本件については、会議に先立ち、インテルやマイクロソフトなど米国IT業界のリーダーらが、中国市場参入の障壁として、独自規格の導入に反対の意を表明するなど、かなりの圧力をかけたと言われています。

また、先月には、米国政府が、呉儀副首相兼衛生相宛に、エバンズ商務長官、パウエル国務長官、ゼーリック通商代表部(USTR)代表の連名で、独自規格の導入を再考するよう要望書を提出していました。一方、後者の知的財産権の保護強化については、米国の考えに基づくアクション・プランを作成することで合意。中国は、2004年末までに知的財産権の侵害に対する罰則規定の強化を図るとともに、輸出入など水際での摘発・監視強化、全国レベルでの普及啓蒙活動など行うことを決めました。

 この他、米国企業の小売業への参入許可や、農業では、米国産遺伝子組み換え作物に対する安全承認をより多くの産品に発行するなどの面で合意がなされました。

【積み残された案件】
 一方、以前から米中間の通商問題となっていた、・繊維製品の貿易格差問題、・人民元制度の見直し問題、・中国の労働環境問題等については、21日発表のアジェンダには盛り込まれず、協議は先送りされることになりました。

 第1の繊維製品の貿易格差問題とは、中国のWTO加盟を契機に、米国は2001年末、中国からの繊維製品の輸入割当枠を拡大しており、その結果、米国の対中繊維貿易が米国側の大幅な輸入超過が続いていることです。言うまでもなく、問題視しているのは米国の繊維業界ですが、今や国内市場の50%以上が中国産アパレルといった見積もりもあるほどです。また、米国側は、中国への輸出が思ったように増加しないのは、中国側の高関税、不適切な関税評価、恣意的な輸入税の徴収、輸入ライセンスの不透明な発行手続き、国営企業への補助金交付、人民元の過小評価など、不公正な貿易障壁によるものであると主張しています。

 第2の人民元制度の見直しについては、中国の輸出を幇助する実態より過小評価された固定相場レートの堅持が問題となっています。

 第3の中国の労働環境については、米国側の主張として、中国の輸出増加は、低賃金かつ劣悪な労働環境によって支えられており、労働者の権利を侵害していると見ています。なお、この問題について、呉儀副首相は、会議後の記者会見で、「事実無根である。仮にそう主張するのならば、米国の労働界のリーダーは中国を訪問し、現状を調査してはどうか」と提案を行っています。

【中国、米国選挙の年に貿易紛争を回避】
 本会議に対するマスコミの報道振りをみると、全般的に会議の成果を評価する声が高いと思われます。その背景には、米国IT業界の利益となる無線LAN規格の国際基準の統一に成功したことや、改めて中国に対して知的財産権の保護強化を確約させたことなどがあります。

 例えば、22日のニューヨーク・タイムズ紙は、「(11月の大統領選挙を控え)会議の成功は、中国の不公正な貿易障壁から生じた米国の産業界へのダメージや雇用喪失といった、現政権に対する民主党の批判をかわすもの」と論じています。

 また、22日のファイナンシャルズ・タイムズ紙は、1面で、「米中、貿易紛争を解決」との見出しでニュースを伝え、「(今会議の一連のアジェンダをみると)中国は、選挙の年に米国との貿易紛争を避けたいとの強いシグナルが読み取れる」と評しています。

有澤保険事務所

自動車保険をはじめ、火災保険、アンブレラ、ビジネス保険、労災保険、生命保険、健康保険などを取り扱う総合保険会社です。Farmers
Insurance、Blue Cross等のエージェントであり、日本語できめ細やかな安心のサービスを提供しています。

有澤保険事務所
2695 Moorpark Ave, Ste 101, San Jose, CA, 95128
http://www.arisawaagency.com

有澤保険事務所
(408) 449-4808
No Reproduction or republication without written permission
Copyright © BAYSPO, Inter-Pacific Publications, Inc. All Rights Reserved.