【印刷で作るトランジスタ】
ゼロックスのパロアルト研究所(PARC)といえば、1970年にスタンフォード大学のすぐ近くにアメリカ全国から優秀なコンピュータ科学者を集めて開設され、現在我々が使っているパソコンの基礎となる数多くの技術を生み出したことで知られる。蛇足だが、その研究成果の大部分を自社では商業化できなかったことでも、知る人ぞ知る研究所である。
そのPARCと、同社のカナダ研究所、ダウケミカル、モトローラが米国標準技術局(NIST)の補助金を得て、インクジェットプリンタを使って紙などの上にトランジスタや集積回路を形成するための技術開発に成功した。
通常、トランジスタの材料はシリコンという物質であり、この表面を削ったり溶かしたり、他の物質を積み上げたりして作る。基本となる材料がシリコンなので、堅くて重くて、折り曲げることはできない。また、この上に様々な細かい回路を描いていく作業は非常に複雑であり、高価で精密な製造装置を使って、極限的な清浄空間の中で作るためコストも高い。
これに対して、今回ゼロックスが開発した印刷トランジスタの技術は、トランジスタを構成する導電体、半導体、誘電体の機能を持つ有機材料をインクのように液状にして、精密なインクジェットで他の素材の上に直接印刷してしまおうというもので、完成すれば非常に安い生産コストで、様々な機能を持つ電子回路ができることになる。
ゼロックスが開発に成功した背景には、これまで培ってきた有機電子材料の合成技術、大面積電子回路のプロセス技術、微小電子回路の設計技術、システムの統合技術、印刷技術など総合的な技術の蓄積があり、さすがはPARCという声が高い。
このような有機材料で作られるトランジスタの動作は、通常のシリコントランジスタよりも低速なので、パソコンのCPUに使えるようなものにはなりそうもないが、コストが低いとか柔軟性に優れるなどの数多くの利点があるので、これまで考えられなかったような応用分野がありそうだ。
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