BaySpo 626号(2004/07/02)掲載
シリコンバレーの3年間を振り返り見れば

ジェトロ・サンフランシスコ・センター 中山 亨

中山 亭
東京生まれ。大学時代の専攻は機械工学。84年通産省に入省。92年から1年間、南カリフォルニア大学でハイテク技術の技術移転に関する調査研究に係わった後、97年までIT関連の産業政策を担当。2001年6月よりジェトロ・サンフランシスコセンターで勤務。本年6月20日に帰国し、経済産業省非鉄金属課課長となる。


 さて、今回の原稿はすでに日本から書いています。3年間暮らしたベイエリアを離れ、6月20日に日本に帰国いたしました。ベイスポの読者の皆様には、長い間ご愛読いただきありがとうございました。ベイスポに記事を載せていただくことで名前を覚えていただき、JETROの仕事の上でも大変な助けとなりました。

【3年間で景気回復
 
3年間を振り返ってみますと、バブル崩壊直後の2001年中盤は比較的短期回復の期待があったのですが、続けて起こった9.11によって株価の低迷が長期化し、特にハイテク産業の景気回復はだいぶ遅れたように思います。しかし、2003年以降は企業収益は着実に回復してきました。

このような企業収益の回復について、ブッシュ政権は大幅な財政赤字の拡大も厭わない大胆な減税の成果だと主張していますが、真偽のほどはわかりません。日本でも、昨年後半から急速に景気回復が進んでいますが、これも小泉総理大臣が叫び続けてきた構造改革の成果なのか、単に中国の経済発展に引っ張られた神風なのかというのと同じようなものです。

 いずれにせよ、広範な企業収益の改善の結果、2003年後半からは再び情報システムへの投資が上向き、シリコンバレーのハイテク産業にも恩恵が及ぶようになりました。同時に、デジタル家電ブームに乗って半導体、通信機器などは大幅に業績を回復しました。この数ヶ月は、シリコンバレーでもついに新規雇用拡大の話が聞かれるようになりました。

 しかし、雇用に関しては、海外アウトソーシングの動きは政治的な意味も含めて引き続き要注意です。元々、高コストなシリコンバレーから、ソフトエンジニアのような労働集約な職種が流出するのは不思議ではないのですが、結果として、中高生の理科教育やエンジニア育成の弱体化にまで及びかねません。こうなってくると、将来的にシリコンバレーの足腰が弱まってくるのではないかと不安になります。

 また、中堅のハイテク職が州外、海外に流出し、代わりに産み出される雇用が比較的低賃金のサービス部門ではないかとの見方もあり、注視していく必要がありそうです。

【身近になった新技術】
 こうしたマクロ経済的な動きを離れてこの3年間の技術のトレンドを振り返ると、ワイヤレス、セキュリティ、オープンソースなどのキーワードが目につきましたが、爆発的なブームとなって需要を大きく牽引するというところまでは行かなかったように思います。また、何か大変に目新しい技術が注目されるということもありませんでした。むしろ、バブルの頃から口にされていた技術が本当の意味で実用化され、身近になったというのが特徴だったのではないでしょうか。

 ワイヤレスの分野では、この3年間で携帯電話が劇的に普及し、端末も高度化しました。カラーになり、カメラが付き、着メロが鳴るようになりました。また、コーヒーショップやホテルの部屋からワイヤレスでインターネットに接続できるようになりました。

 日本と同じようにデジカメ、携帯電話、DVDの新三種の神器がエレクトロニクス産業の回復を牽引し、これらのデジタル家電用の半導体を設計するようなベンチャー企業が注目を集めています。

【これからのシリコンバレーは
 
アメリカで一、二を争うほど生活物価が高く、従って人件費の水準も高く、環境法制や労働法制が厳しいシリコンバレーは、企業にとっては厳しい事業環境だということができます。それでも、世界中からこの地域に企業が集まってくるのは、膨大な投資資金が集まっていること、有名大学を中心に有能な人材が多数いること、様々な出会いからビジネスチャンスが生まれやすいことなどによるのでしょう。

 バブルが崩壊し、景気が低迷し、そして回復し始めたシリコンバレーですが、このような特色は失われていません。むしろ、ITやエレクトロニクスを超えて、バイオテクノロジーやナノテクノロジーといった新しい分野に産業の広がりを見せているといえます。これらの新しい分野で継続的に多数の実験的な企業が生まれ、多くの屍の中にも生き延びる企業が出てきて、10年、15年の後にシリコンバレーの次の波を作っていくことでしょう。 

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