BaySpo 630号(2004/07/30)掲載
どうなる今後のIT企業の業績見通し

ジェトロ・サンフランシスコ・センター 田中 一史

田中 一史
東京生まれ。1990年ジェトロ入会。海外調査部アジア大洋州課、マニラ・センター調査部、「世界は今」(日経CNBC等)の番組ディレクターなどを経て、2002年3月、サンフランシスコ・センターに広域産業調査員として着任。

 シリコンバレーの主要IT企業の2004年4〜6月期決算が、相次いで発表された。半導体企業の業績は概ね絶好調といったところであるが、インテル社の過剰在庫問題などを材料に2004年下半期以降、コンピュータの需要が減退するのではないかといった予測が飛び出したから穏やかでない。

【インテル、過剰在庫に直面
 
半導体大手インテル社の売上高は、前年同期比18%増の80億4,900万ドルと好調であった。純利益は、17億5,700万ドルと、前年同期比の約2倍の黒字を計上した。しかし、売上総利益率は59%と、当初見込みの60‐61%を下回った。これは、同期後半に出荷を始めたチップに不具合が見つかり、その製品回収に3,800万ドルの特損を計上したためである。また、在庫水準は、適正在庫より15%(4億2,700万ドル)膨らんだことを明らかにした。

 国・地域別の売上高は、アジア・大洋州が最大で、前年同期比32%増の36億6,100万ドルと総売上高の45%を占めた。欧州および日本からの売上高もそれぞれ好調であった。一方、米州は0.05%増の19億5,600万ドルとほぼ横ばいの売上げであった。米国での売上げに力強さが欠けているのは、企業のIT支出が本格的に回復していないためと見られている。

【AMD、売上げがほぼ倍増に
 
インテルの競合相手、アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)の売上高は、前年同期比96%増の12億6,200万ドルとなった。売上げの倍増は、携帯電話用フラッシュメモリーの売上げ増加が貢献した。また、2003年6月末に設立された富士通とのフラッシュメモリー事業の新会社、FASL LLCの売上げが加算されたことも要因。純利益は3,200万ドルと、3期連続の黒字を確保。

【サン、13期ぶりに売上げ増加
 
サン・マイクロシステムズ社の売上高は、前年同期比4%増の31億1,100万ドルと、13期ぶりに増加に転じた。売上げの増加は、新製品の市場投入と日本を除く全世界的なサーバー需要の増加が奏功したという。純利益は、前期に計上した7億6,000万ドルの赤字から7億9,500万ドルの黒字に。純利益の黒字化は、マイクロソフト社からの和解金の一部(16億ドル)などが入庫されたためで、これがなければ赤字であった。

 同社は引き続きリストラを断行しており、4月には3,300人の追加解雇計画を発表。また、今後1年で、10億ドルのコスト削減を謳っており、研究所の統合と自社ビルの売却を進めていくようだ。

【オラクル、6期連続2桁台の成長
 
企業向け業務ソフトウェア大手のオラクル社の第4四半期(3〜5月期)の売上高は、前年同期比9%増の30億7,600万ドルとなった。純利益は、同15.4%増の9億9,000万ドルと、6期連続2桁の伸びで黒字を計上。

シーベル、売上げ減少
 
オラクル社のライバル企業であるシーベル・システムズ社の売上高は、前年同期比10%減の3億110万ドルとなった。純利益は、820万ドルの黒字を計上したものの、前年同期に比べ16%下落した。同社は、今決算発表の2週間前に、顧客企業による取引の順延を理由に、売上げの下方修正を行った。

早くもIT景気に陰りか
 
今決算発表で特徴的であったのは、インテル社の巡る動きである。同社の売上高および純利益は、申し分のない出来であったものの、在庫の増加を理由に下半期には同社の生産にブレーキがかかるのではないかとの観測が高まり、コンピュータ産業の先行きに対する懸念が生じたことである。そのため、好決算にも拘わらず、同社の株価は、決算発表日の時間外取引にて約5%下落した。これは、同社の決算発表に先駆け、メリルリンチ社が世界における半導体セクターの今後の需要の頭打ちを理由に、同セクターの投資評価を「オーバーウエイト」から「アンダーウエイト」に引き下げたことも一因といえる。

 さらに、これらのネガティブ要素に、追い討ちをかけたのが、AMDが7‐9月期の売上げ予測について?適度な増加(moderate increase)?と曖昧な表現にとどめたことである。

 これを受け、アナリストらは、前日に決算発表を行ったインテルの過剰在庫に同社も神経質になっているのではないかと感じているようだ。

 サン・マイクロシステムズ社については、シリコンバレーでは、2001年以降のIT不況を煽りを受けて断続的なリストラを繰り返す同社の先行きに対して悲観的な見方が蔓延している。同社不振の根底は、企業のIT支出(特に新規サーバーへの投資)が本格的に回復してこなかったほか、安価なリナックス・ベースのサーバーの普及がある。そのため、ハイエンド製品を売りにしていた同社では、安価なサーバーの市場投入や、IBM型のコンサルティング・サービスから安定した収入を得ようと、社内の経営改革を進めている。これらがようやく実り、今決算では約3年ぶりに前の年の売上げに比べ増加に転じた。

 企業向け業務ソフトウェア企業の業績見通しについても、1ヵ月前に決算発表が行われた業界第1位のオラクル社は別として、2番手以降の企業の業績見通しは、需要の減退を理由に厳しい見方が広がっている。事実、シーベル・システムズ社をはじめ、ピープルソフト社やベリタス社の業績不振は如実になってきている。シーベル・システムズ社のケン・ゴールドマン最高財務責任者も、「他のソフトウェア企業は、需要の減少に苦慮している」と、業界がおかれている状況が必ずしも順調でない考えを示した。

 米国では、2003年後半以降、パソコンや情報家電の売れ行き拡大や中国など東アジアでの需要増大などを背景に、IT景気の回復がみられるようになっていたが、僅か1年と経たないうちに、早くもその先行きに対する懸念が広がっている。それは、世界的なIT景気の回復が叫ばれている中でも、シリコンバレーの労働力人口は減る一方で、新規雇用も頭打ち、商業不動産の空室率にも改善がみられなかったことは、企業自身、設備投資や景気回復に慎重な態度をとっていた表れともいえようか。

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