BaySpo 638号(2004/09/24)掲載
半導体の技術進歩はいつまで続くのか

ジェトロ・サンフランシスコ・センター 星野 岳穂

星野 岳穂(ほしの たけお)
1962年生まれ、東京都出身。1987年通商産業省(現 経済産業省)入省、電子機器課、地球環境対策室、航空機武器宇宙産業課、原子力産業課、鉄鋼課等に在任し、主として産業振興、技術開発政策を担当。2004年7月、JETROサンフランシスコに勤務。


シリコンバレーの発展の原動力は、何と言ってもやはり半導体技術の不断の進歩によりコンピュータの性能が飛躍的に向上し続けてきたことにあるのは論を待ちません。半導体の性能向上でコンピュータの価格性能比が上昇し、それまでのコンピュータでは考えられなかった市場やアプリケーションが創造されてきました。それらのイノベーションが更なる性能向上を要求する一方、半導体の性能向上はPC等の製品の買い換え需要を喚起し続け、産業が拡大して更なる研究開発投資を可能とするという循環メカニズムが形成されてきました。

 半導体の技術進歩については、今や世界最大の半導体メーカーであるインテル社の創設者の一人、ゴードン・ムーア博士が1965年に経験則として提唱した、「半導体の集積密度は、約2年で倍増する」という法則があまりに有名です。しかしこの法則では、半導体の性能は等比級数的に無限に成長していくことになり、現実にはいつかこの法則が成立しなくなる、すなわち技術的限界が訪れる時が来ることになります。微細化が原子レベルにまで到達してしまうと、「トンネリング」という物理現象(電子がゲートによる制御と関係なく容易にチャネルを通過してしまう)が不可避的に発生し始めます。この現象が起こると電子制御の信頼性が損なわれ製品として成立しなくなることから、これが理論的な限界ということになります。

 

では、限界に達するのはいつ頃かという、議論はこれまでも何度となく専門家によってなされてきましたが、振り返れば過去約40年間にわたってこの法則は成立し続けています。昨年インテルの研究者により発表された論文では、2018年頃、チップが16nmプロセスで作られる際にトランジスタのゲート長は約5nmになり、これが限界となるだろうと予測されています。現在の技術水準はどうかと言えば、それまでの130nm世代から90nm世代へ移行しつつあり、90nmの量産を世界で初めて開始したインテルは、2005年には65nmの量産を開始、更には2009年に32nmを実現するとしています。その限りでは、16nm時代は未だ先であり、少なくとも当面はムーアの法則が引き続き守られていくようにも思われます。

しかし現実には、そうした理論的技術限界を待たずに、産業界では既に大きな壁に直面しつつあるようです。130nmを超える微細な半導体では、微細化してクロック周波数を上げようとすると電流の漏れ(リーク)が増大し消費電力が高くなる一方、発熱が激しくチップ動作が不安定になる、更には半導体内部での電気信号の伝達が遅くなるといった問題が生じます。現実の製品を見ますと、例えば2001年末に市場に出されたインテルPentium4"Northwood"は130nmであるのに対して、2004年2月に同社から発表されたPentium4"Northwood"は90nmと微細化が進んでいますが、両者のクロック数(したがって性能)に大きな差はなく価格差もほとんどありません。インテルは従来から、性能向上分だけ価格面でのマージンを付加してきたことからしても、インテル自らが130umと90nmの間にはもはや実用製品としての利用では性能差が無いことを示していると言えるとの指摘もあります。

 これに対して、微細加工技術の限界を回避すべく、SOI(トランジスタ層の下に絶縁膜層を置きリーク電流を遮断)の実用化、複数チップを1パッケージ化(デュアルコア化、マルチコア化)を進めるというのが現在の技術動向であり、これらにより、半導体の「性能」という意味でムーアの法則はまだまだ続くという強気の見方もインテルから出されています。

しかしながら、技術的には可能でも、そうした技術は高コストであり、半導体の技術進歩のコストパフォーマンス低下し従来ほど市場にインパクトを与え得なくなる懸念はあります。実際、近年のコスト削減の方向としては、1チップの微細化の追求ではなく、シリコンウエハを従来の8インチから12インチに拡大しチップの量産コストを下げる方への投資が活発化しており、半導体の性能自体の技術進歩は成熟期を迎えつつあるとの見方もあります。

そうなれば、インテルの先行優位性は徐々に揺らぎ始め、CPUでさえDRAMのように新たな激しい競争時代の幕開けを迎えることにもなるでしょう。既に、AMDが同社のプロセッサOpteronのデュアルコア版を発表し、これに対抗してインテルも先日のインテル・デベロッパ・フォーラムでデスクトップ版のデュアルコア・プロセッサを公開するといった動きが始まっています。

 シリコンバレー全体にとっても、半導体が従来の微細加工技術の延長による産業発展という図式が描けなくなったとすれば大きな転機と言えます。過去、こうした局面において、それまでのコストレベルを超えた技術)を要求し、イノベーションを持続させてきた大きな牽引役の1つは安全保障ニーズでした。その意味で、米国のセキュリティ政策がシリコンバレーの将来に与える影響はどの程度か、今後注意深く分析していく必要がありそうです。

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