BaySpo 640号(2004/10/08)掲載
シリコンバレーの雇用情勢を探る

ジェトロ・サンフランシスコ・センター 村松 洋介

村松 洋介 (むらまつ ようすけ)
1964年生まれ、神奈川県出身。
1988年国税庁入庁。旧大蔵省国際金融局、高松国税局、旧大蔵省理財局、福岡国税局等に在任し、2003年8月からJETROサンフランシスコに勤務。

シリコンバレーの失業率は低下していますが、まだ十分な雇用の伸びが見られているとは言えません。今回はシリコンバレーの雇用の現状と今後の見通しについて考えます。

【雇用者数はいまだに減少】

今回から執筆メンバーに加わることになりました。シリコンバレーの経済、産業動向について皆様と一緒に考えていく姿勢で臨みたいと思いますので、どうか宜しくお願い致します。

さて、今回はシリコンバレーの雇用情勢を取り上げてみましょう。シリコンバレーではITバブル崩壊後に20万人もの雇用が失われています。雇用の現状と今後の見通しはどうでしょうか。

 

まず現時点の雇用統計を見てみましょう。シリコンバレーの中心地であるサンタクララ郡の失業率を見ると、2004年8月には5.5%と前月の6.4%から大きく改善しています。2003年8月の失業率は8.1%でしたので、前年同月比でも2.6ポイントの改善を見せたことになります。しかし、注意を要するのは非農業部門の雇用者数(payroll)の数値です。2004年8月は前月に比べて1.900人の減少となっています。

ここでは主に2つの点が問題となります。1つは、シリコンバレーのハイテク企業などでは業績の回復が見られているにもかかわらず、それが必ずしも雇用の増加としてつながっていない点です。2つめは、失業率が大幅に改善しているにもかかわらず、依然として雇用者数の減少が見られる点です。これらのことをどのように考えたらよいのでしょうか。

【雇用回復の遅れは急激な生産性向上が要因か】

 前者の点については、カリフォルニア大学バークレー校のエコノミストであるアラン・アウアーバッハ(Alan Auerbach)氏の見解が一つの示唆を与えています。同氏は、米国の経済成長率自体は悪くないにもかかわらず雇用の回復が遅れている理由として急激な生産性向上をあげています。したがって、ハイテク企業の業績が回復していても急激に生産性が向上しているので以前ほど雇用が必要でなくなっており、このことがシリコンバレーに強く当てはまっていると解釈することは可能と思われます。

【失業率の低下は労働力人口の減少が要因か】

 それでは、シリコンバレーでは失業率の数値は大幅に低下しているにもかかわらず雇用増となって現れていないのはなぜなのでしょうか。この点について地元のエコノミストらはいくつかの見解をあげています。

 1つは、失業率の低下は労働力人口の減少のためとする見解です。失業率は失業者数を労働力人口で除して求められます。ここで労働力人口は就業者数と失業者数の合計です。例えば、現在失業中の人がシリコンバレーで職を探すのをあきらめてシリコンバレーから別の地域に移転すれば、失業者の減とともに労働力人口の減となって計算上は失業率が低下することになります。また、失業中でも求職活動を行わない人が増えているためという見解もあります。統計上は求職活動を行わないと失業者としてカウントされないからです。これらの見解は、表面的には失業率の数値が低下しているが実質的には意義のある失業率の改善とは言えないということを示唆しているようです。

 一方で、就業者数調査(payroll survey)の統計処理方法に着目して説明を試みる見解もあります。起業が盛んなシリコンバレーでは最初の雇用は新規に設立されたばかりの企業(start-up companies)で起こるが、こうした企業はこの調査の対象外となっておりその従業員が雇用者数にカウントされてこないという説明です。この説明は、シリコンバレーの労働市場が過小評価されており、実際のシリコンバレーの雇用環境は、統計上の雇用者数で見る以上に改善しているという見方につながります。

【雇用者数の力強い回復を期待】

 この見解からはシリコンバレーの雇用見通しについて明るい兆しを読み取ることもできるでしょう。しかしながら、やはりシリコンバレーの景気回復は失業率の低下だけではなく継続的な雇用者数の増加を見てはじめて本格化すると考えるのが適当でしょう。そうだとすれば、現状では必ずしもまだ楽観視できる状況にあるとは言えないように思われます。こうした中で、シリコンバレー製造業協会(Silicon Valley Manufacturing Group)が9月23日に公表した「Projection Silicon Valley 2005」というレポートは、「シリコンバレー経済は3年以上にわたる不況および雇用の減少を経て回復の兆候を示し始めた」とし、2005年の雇用の伸びを2.3%増、3万人の増加と見込んでいます。このレポートが予測するように雇用者数の力強い回復が望まれるところです。

(注) 「Projection Silicon Valley 2005」は以下で閲覧できます。

http://www.svmg.org/Uploads/FINAL_REPORT05.pdf

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