BaySpo 646号(2004/11/19)掲載
ようこそデジタル情報家電の時代に
〜これからは日本の出番〜

ジェトロ・サンフランシスコ・センター 田中 一史

田中 一史
東京生まれ。1990年ジェトロ入会。海外調査部アジア大洋州課、マニラ・センター調査部、「世界は今」(日経CNBC等)の番組ディレクターなどを経て、2002年3月、サンフランシスコ・センターに広域産業調査員として着任。

 90年代のパソコンおよびインターネット時代の次はどのような製品分野が主流になるのか?私は、2000年代後半は高度デジタル情報家電の本格的な時代を迎えるのではないかと考えている。あるいは、ワイヤレスと情報家電をミックスしたユビキタス家電の時代が到来するのではないかと考えている。おそらく読者の方の多くも、高度デジタル情報家電(何を以って高度と定義するか議論があるが…)の時代になることにはさほどの異論がないかと思うが、シリコンバレー、日本、東アジアの3極の勢力図が代わることになるのではないか、あるいは日本企業がこの分野の牽引役になるのではないかと言った途端に、反論の声が聞こえてきそうである。最近、意図的にこのテーマでシリコンバレーの米国企業等に勤める方々と意見交換を進めており、彼らの反応は、一様に総論は面白いが、各論は台湾勢を初め、東アジア企業の技術力を軽視しているのではないか、といった声が聞かれる。

【90年代のビジネスモデル】
 実はどういうことかというと、90年代は、Wintel(インテルのCPU、マイクロソフトのOS)に代表されるように米国勢がパソコン業界のデファクト・スタンダードを握り、モジュール化や標準化を進めていってくれたお蔭で、安いコンピュータ部品が中国や東南アジア諸国で生産できるようになり、今やデスクトップPCならば、500ドルも出せば、デルやHPなどのブランドを購入できるようになった。このため、日本勢もパソコン市場で健闘はしつつも、市場シェアは米国勢と比べ低く、しかも結局はWintel搭載のマシーンを販売している。

こうしたパソコン業界の90年代のビジネスモデルは、シリコンバレーで、半導体のデザイン論理や回路設計などを行い、半導体プロセスは台湾や中国、シンガポールなどのファンドリーに委託生産し、その他のコンポーネンツは東南アジアや中国等で生産し、現地で完成品を組み立て、米国に逆輸入するといったものであった。実に美しい国境を越えた生産ネットワークの構築である。これ自体には異論がないが、次世代の情報家電(ユビキタス家電)もこうした生産・調達・販売ネットワークが当てはまろうか?答えはこれから数年かけて出るかと思うが、私は、少なくともそのネットワーク構築に日本企業が重要な役割を果すのではないかと考えている。

【今こそ日本の優位性を見直し】
 まず第1に、携帯電話とデジタル家電を合わせれば、既に世界には22兆円の一大マーケットが成立しており、パソコン市場の18兆円を凌ぐ勢いである。このマーケットの圧倒的なシェアを有しているのが日本勢である。つまり、デファクト・スタンダードを狙いに行くには現時点で圧倒的なシェアを持っている日本企業との連携が何らか必要と考えるのは自然の流れであろう。もっとも、台湾、韓国、中国、米国勢等も今後の市場シェア獲得を目論み、競争の幕は切って落とされたばかりであるが…。

 第2に、高度デジタル情報家電の本格的な時代を迎えるにあたり、日本の垂直統合型企業(IDM)の多くは、高度デジタル情報家電(薄型テレビやデジタル家電向けLSIやASIC等)の開発および生産を日本国内に意識的に残そうとする動きが顕在化していること。その背景として、高付加価値製品の実用化には、歩留まり率の向上等を目的とした開発と生産技術の融合や共同作業が不可欠であると考えられているほか、台湾、中国勢等への生産技術の漏洩懸念などが挙げられる。もっとも、日本企業も汎用品等の生産については東アジア大の生産ネットワークの構築を進め、生産の棲み分けには余念がない。 

従って、高度デジタル情報家電時代においては、開発と生産が一体となった製品作りがより一層求められるようになり、その両方を有する日本企業とのアライアンスが必然的に必要になってこよう。

事実こうした考えを裏付けるように、AMDが東京にモバイル・コンピューティングに関するR&D部門を設置したほか、米イーストマン・コダックがデジタルカメラの商品企画や開発業務を日本に集約する旨を発表している。ファブレスメーカーとしては、ザイリンクスが東芝の大分工場が持つ回路線幅90nmの最先端加工技術を目的に半導体生産を委託する(東芝は受託生産品の前払い金として100億円を受け取り、設備投資に充てる予定)。

特に、ザイリンクスは台湾のファンドリー大手のUMCにも回路線幅90ナノの最先端製品を委託生産してきたが、歩留まり向上が難しく、微細加工で高い技術力を持つ東芝とも手を組むようになった。また、ラティスも、富士通の三重工場に、90ナノおよび130ナノの加工技術を使ったEPGA製品を製造委託することで決まっている。さらに、今後は65ナノの加工技術を使用する製品の製造委託についても検討しているようだ。

 これらの例は、立派な日本へのグリーンフィールド投資であり、一般にビジネスコストの高い日本には製造業投資をしないというパーセプションを覆す新しいパラダイムである。

 第3に、高度デジタル情報家電の最初のテストマーケットとされる日本市場において日本企業の持つ販売・流通ネットワークを利用することができ、厳しい日本の消費者の目による製品改良後、東アジア市場そして世界市場に導くことができること。そうした商品の成功例として、携帯電話、デジタルカメラ、大型薄型テレビ(液晶やプラズマ)、DVDレコーダーなどが挙げられる。

【日本に対するパーセプションの改善を】
 しかし、シリコンバレーでは、今なお中国や東アジアブームが続いており、また同時に台湾企業等が持つ半導体のウエハー加工技術などは日本並みあるいは日本以上と考える向きも少なくなく、「ジャパン・パッシング」、「ジャパン・ナッシング」、「ジャパン・スキップ」などといったパーセプションが出来上がってしまっているのも事実である。そこで、こうしたパーセプションを改善するにはより一層意識的な日本のPRをすることも必要であろう。このままでは、シリコンバレーの有する研究開発能力がアジア諸国に移管される可能性も大きく、高度デジタル情報家電を巡る大競争時代を迎えるにあたって、日本企業としても、積極的に米国企業と研究開発の段階からアライアンスを組むことは双方にとってメリットがあると思う。

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