BaySpo 648号(2004/12/03)掲載
ブロードバンド普及の遅れに危機感も
〜米国のブロードバンド化を巡る問題について考える〜

ジェトロ・サンフランシスコ・センター 村松 洋介

村松 洋介 (むらまつ ようすけ)
1964年生まれ、神奈川県出身。
1988年国税庁入庁。旧大蔵省国際金融局、高松国税局、旧大蔵省理財局、福岡国税局等に在任し、2003年8月からJETROサンフランシスコに勤務。

 最近、米国では、ブロードバンドの普及が他国に比べて立ち遅れているという議論が高まっており、何らかの政策的対応を求める声が出てきています。通信回線のブロードバンド化は、ネットワーク機器大手のシスコシステムズ社などを擁し、通信機産業や電気通信サービスと関連が深いシリコンバレーにとっても、関心の深いテーマと思われます。そこで、今回は米国のブロードバンド化を巡る問題について考えてみます。

【米国ではブロードバンドの普及率が世界第3位から第13位に下降】
 近年、インターネットのアクセスには、ブロードバンド(広帯域回線)が利用されるようになり、電話回線を利用した場合と比較して数十倍から数百倍のスピードでの伝達が可能になりつつあります。そこで米国のブロードバンドの普及状況を見てみると、本年9月の商務省のレポートは、家庭でのブロードバンド利用率が2001年9月の9.1%から2003年10月の19.9%と2倍以上に増加したと説明しています(注1)。

 ところが、本年10月に消費者団体の米国消費者連合は、この数年間にブロードバンドの普及率が世界第3位から第13位に下降したこと、米国民はブロードバンドにアクセスするのに、1メガビットあたりで日本や韓国の消費者よりも20倍も多く料金を支払っていることなどを内容とするレポートを発表しています(注2)。このレポートは米国の電気通信政策が、米国のブロードバンドの普及を遅らせる結果になっていることを批判するものです。このレポートを作成したマーク・クーパー(Mark Cooper)氏は、「米国は二重の失敗を犯した。ハイスピード・インターネットを他国と同程度に普及させることに失敗し、また持つ者と持たざる者との格差(デジタルディバイド)を縮小させることにも失敗した」と語っています(10月27日「サンノゼ・マーキュリー」紙)。

【今年の大統領選でもブロードバンド推進が議論】
 ここで今年の大統領選を振り返ってみますと、共和党のブッシュ大統領と民主党のケリー候補はともにブロードバンド推進を訴えました。その方策としてブッシュ大統領は「規制緩和」を、ケリー候補は「租税によるインセンティブ方式」を提案していました。ただし、ベイエリアでの報道を見る限り、両氏ともこの分野で過去の実績に乏しいのが心配されるという論調が目立ちました。すなわち、残念ながらブロードバンド推進に関しては、ブッシュ大統領にもケリー候補にもあまり期待が持てないという趣旨のものでした(10月25日「サンフランシスコ・クロニクル」紙、10月29日「サンノゼ・マーキュリー」紙)。

【ブッシュ再選後の最優先課題はブロードバンド推進であるべきとの声も】
 それでは、大統領選終了後の状況はどうでしょうか。通信技術のノーテル・ネットワークス(Nortel Networks)社、ビル・オーエンス(Bill Owens)社長は、「再選されたブッシュ大統領にとっての最優先課題は、高速ブロードバンドの拡大であるべきだ」と明確に主張しています。同社長は、「中国、韓国、インドのような国々は、進歩した電気通信のインフラが経済的、社会的発展を促進し、外国からの投資を呼び寄せることを理解している」と述べ、もうこれ以上他国に遅れをとることは許されないと危機感をあらわにしています。特に、同社長は、「高速ブロードバンドは、インターネットを単なる閲覧の道具(a simple Web−browsing tool) から力強い経済のエンジンに変化させた」とその重要性を指摘しています(11月18日「サンノゼ・マーキュリー」紙)。

【他国にリードを許していることへの危機感高まる】
 このように最近のブロードバンドを巡る議論を見ると、米国が他国にリードを許していることへの危機感が高まってきているようです。そして、何らかの政策的対応が必要だという声が出てきているように思われます。ブッシュ大統領は、2007年までに全ての国民にブロードバンドを利用可能にするという目標を掲げ、その方策として「規制緩和」を主張しているところですが、規制緩和に加えて何か具体的な政策を打ち出していくのかどうか、シリコンバレーにとっても今後の動向が注目されると言えるでしょう。

(注1) 米国商務省レポート、「ブロードバンドの時代へ(Entering the Broadband Age)」 (2004年9月)
http://www.ntia.doc.gov/reports/anol/index.html

(注2)  米国消費者連合(Consumer Federation of America)のレポート、「デジタルディバイドの拡大とブロードバンドの立ち遅れ(Expanding the Digital Divide and Falling Behind in Broadband)」 (2004年10月)
http://www.consumersunion.org/pub/ddnewbook.pdf

有澤保険事務所

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