BaySpo 702号(2005/01/14)掲載
ベイエリア日系企業の業績は改善の方向
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 村松洋介
◆村松 洋介 (むらまつようすけ)
1964年生まれ、神奈川県出身。
1988年国税庁入庁。旧大蔵省国際金融局、高松国税局、旧大蔵省理財局、福岡国税局等に在任し、2003年8月からJETROサンフランシスコに勤務

 ジェトロ・サンフランシスコと北加日本商工会議所(JCCNC)は、ベイエリアの日系企業の実態を調査しました。本調査によると、日系企業の業績は改善の方向にあり、特に製造業でそれが顕著に現れています。ベイエリアの魅力としては、IT産業やバイオ産業が盛んな当地の地域的特性を反映して「産業集積」を挙げる企業が最も多かったのですが、一方で「雇用コストの上昇」を懸念する声も高まっています。今回はこの実態調査の結果を紹介します。

【製造業の過半数がシリコンバレーに立地】

 隔年で実施している「ベイエリアの日系企業〜2004年度(第7回)実態調査」(注1)では、日本企業が10%以上出資している企業(現地法人)、日本企業の支店・駐在員事務所および日本人が設立し運営している日本人設立企業を対象に、事業状況や経営環境などを聞いています。ベイエリア内には前回調査(2002年)比で86社減となる528社の日系企業の存在が確認でき、うち244社から回答を得ました(回答率46.2%)。

 企業の地理的分布(構成比)を郡別にみると、シリコンバレーの中心地であるサンタクララ郡に約4割(39.3%)、サンマテオ郡とサンフランシスコ郡にはそれぞれ約2割(19.7%、19.3%)の企業が立地しており、この3つの郡で全体の約8割(78.3%)を占めます。ただし、最大の立地先であるサンタクララ郡の割合は、前回調査よりも2.1ポイント減少しています(41.4%↓39.3%)。

 業種別分布では、サービス業(33.6%)が最も多く、製造業(28.3%)、商社・貿易業(18.9%)がそれに続きます。サービス業の立地が最も多いのはサンフランシスコ郡で、サービス業全体の3割強(31.7%)を占めます。一方で、製造業の立地が最も多いのはサンタクララ郡で、製造業全体の半数以上(52.2%)に達します。したがって、日系企業においても、サービス業の中心はサンフランシスコに、製造業の中心はシリコンバレーにあるという大まかな特色が読み取れます。

【1980年代後半、1990年代後半に進出した企業が多数】

 年代別進出状況をみると、1980年代後半に進出した企業(27.0%)が最も多く、次いで多いのが1990年代後半(16.1%)となっています。事業形態では、現地法人が全体の約8割(79.5%)を占めます。資本構成については、日本の親会社から100%の出資を得ている企業が全体の約7割(69.9%)に達します。企業規模を売上高でみると、1.000万ドル未満の企業が49.0%と約半分を占める一方、1億ドル以上の企業も17.9%あります。

【雇用、寄付・ボランティアで地域社会に貢献】

 日系企業の1社あたりの雇用者数は71人で、その内訳は、現地従業員が67人(94.4%)、日本からの派遣従業員が4人(5.6%)となっています。1社あたりの雇用者数(71人)に、ベイエリア内で存在が確認された日系企業数(528社)を乗じて総雇用者数を試算すると約3万7.500人となります。このうち現地従業員としての雇用は約3万5.300人にのぼります。業種別にみると、1社当たりの雇用者数が最も多いのは製造業(146人)で、金融業(119人)がそれに続きます。なお、日本からの派遣従業員は、30歳代(47.0%)が最も多く、続いて40歳代(33.2%)で、この2つの年代で全体の約8割を占めます。

雇用の増減をみると、2002年と2003年の比較において雇用数が「ほぼ同じ」(53.7%)と回答した企業が過半数に達し、「増加した」(22.9%)、「減少した」(23.4%)と回答した企業はそれぞれ約2割強にとどまっています。

 なお、日系企業は米国社会やコミュニティに対する貢献も行っています。約半数(49.1%)の企業が寄付活動を行い、1社あたりの平均寄付額は約14万4.700ドルでした。また、2割(20.0%)の企業がボランティア活動を行っています。

【業績は製造業を中心に改善】

 売上高の状況をみると、2002年と2003年の比較において売上が「増加した」と回答した企業は42.8%で前回調査の36.4%から6.4ポイント増加する一方で、「減少した」と回答した企業は31.7%で前回調査の45.9%から14.2ポイント減少しています。業種別にみると、製造業で「増加した」と回答した企業が62.3%に達しました。このように売上については、製造業を中心に好転の兆しが読み取れます。

 次に、営業利益の状況をみると、黒字企業の割合が過半数(53.4%)を占めました。また、2002年と2003年の比較において営業利益が「改善した」と回答した企業は46.9%と前回調査の29.0%から大幅に増加する一方で、「悪化した」と回答した企業は21.5%で前回調査の40.3%から大幅に減少しています。業種別にみると、特に製造業で「改善した」と回答した企業の割合が大幅に増加しています(28.6%↓67.8%)。以上のことから、営業利益は改善の方向にあり、特にそれが製造業で顕著に現れていると見ることができます。

 さらに、「今後1、2年の営業利益の見通し」という項目では、「改善する」と予想する企業が58.8%と前回調査の51.0%から7.8ポイント増加する一方で、「悪化する」と予想する企業は5.2%と前回調査の11.7%から6.5ポイント減少しています。全般的に企業マインドが好転し企業の収益回復期待も高まってきていると見られます。

【ベイエリアの魅力は「産業集積」がトップ】

 ベイエリアの魅力としては、「産業集積」(40.5%)を挙げる企業が最多です。IT産業やバイオ産業が盛んなベイエリアの地域的特性を反映したものと見られます。次いで、「市場の大きさ」(36.4%)、「天候」(33.6%)が続きます。「日本への近さ」(28.2%)を魅力として挙げる企業も多いです。一方で、「日系社会の大きさ」を挙げる企業の割合は前回調査より6.9ポイント減少しています(17.8%↓10.9%)。

 自社の現在の業績をベイエリアへの進出などの目的に照らして評価すると、6割弱(57.5%)の企業が肯定的に評価しています。また、今後の業績予想としても、「改善が期待できる」(42.0%)とする企業が「厳しくなる」(16.4%)とする企業を大きく上回っています。

【「雇用コストの上昇」を懸念する企業が大幅増加】

 業務運営上の不安材料としては、前回調査と同様に「米国景気回復の遅れ」を挙げる企業が最多でしたが、その割合は大幅に減少しました(80.4%↓60.5%)。「日本の親会社の体力低下」を挙げる企業も減少しています(23.1%↓15.0%)。これらは日米の景気回復を反映していると見られます。一方で、今回調査で大幅に増加したのは、「雇用コストの上昇」(23.4%↓41.4%)、「テロ・戦争の影響」(27.9%↓39.1%)の2つの項目です。

 州・自治体に対しては、「雇用コスト」および「税制」への対応を要望する声が強いです。しかもこの2つの項目を挙げる企業の割合は前回調査に比べて大幅に増加しています(「雇用コスト」は45.1%↓58.0%、「税制」は35.3%↓49.2%)。ベイエリアで活動する日系企業は、カリフォルニア州のビジネス環境の悪化を強く認識しているものと見られます。一方で、「電力供給」を挙げる企業の割合は大幅に減少しました(27.7%↓13.3%)。

【医療保険の提供は高い水準】

 さらに、医療保険の提供状況をみると、「従業員とその家族」に提供している企業が全体の8割以上(81.2%)に達しました。また、保険料を「100%会社負担」している企業は40.7%、「80%以上会社負担」している企業は33.2%と多数を占めました。このことから、日系企業における医療保険の提供状況は、全般的に高い水準にあるものと見られます。

 本調査のフル・レポート(和文)は、ジェトロ・サンフランシスコのウェブサイトで閲覧可能です(注2)。最後に、この場をお借りしまして、調査にご協力いただいたベイエリア日系企業の皆様方に厚く御礼申し上げます。 

(注1)本調査は2004年4月〜9月にアンケート調査方式により実施したもので、調査基準日は2004年1月1日現在またはそれに近い決算時期としています。また、ベイエリアの範囲は、サンフランシスコ、サンマテオ、サンタクララ、アラメダ、コントラコスタ、マリン、ナパ、ソノマ、ソラノおよびサクラメントの10郡(カウンティ)としました。

(注2)ジェトロ・サンフランシスコのウェブサイト

http://www.jetrosf.org/index.htm

英文レポートは1月中に公表予定。 

有澤保険事務所

自動車保険をはじめ、火災保険、アンブレラ、ビジネス保険、労災保険、生命保険、健康保険などを取り扱う総合保険会社です。Farmers
Insurance、Blue Cross等のエージェントであり、日本語できめ細やかな安心のサービスを提供しています。

有澤保険事務所
2695 Moorpark Ave, Ste 101, San Jose, CA, 95128
http://www.arisawaagency.com

有澤保険事務所
(408) 449-4808
No Reproduction or republication without written permission
Copyright © BAYSPO, Inter-Pacific Publications, Inc. All Rights Reserved.