BaySpo 704号(2005/01/28)掲載
早くも大画面薄型テレビのコモディティ化
〜世界最大の家電ショーCESレポート〜
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 田中 一史
田中 一史 (たなか かずし)
東京生まれ。1990年ジェトロ入会。海外調査部アジア大洋州課、マニラ・センター調査部、「世界は今」(日経CNBC等)の番組ディレクターなどを経て、2002年3月、サンフランシスコ・センターに広域産業調査員として着任。

 新春早々、仕事の関係で、インターナショナル・コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)という毎年ラスベガスで開催される世界最大の家電ショーに行って参りました。

【商品の目新しさに欠けた年】

 今年のCESには世界115ヵ国・地域からおよそ14万人以上の家電関係者が訪れ、大盛況でした。しかし、今年は、いずれの大手情報家電メーカーも、プラズマや液晶などの大画面薄型テレビ、プロジェクター、次世代DVDレコーダー、デジタルカメラ、携帯端末、アップル・コンピュータのiPodのコンセプトに限りなく似た小型音楽再生機など、展示商品の目新しさに欠ける感も否めませんでした。

【米国CEOら「デジタル・ホーム」を提唱】

 米国のIT業界ではCESでの製品発表から1年半から2年すると、これらの製品が実際に米国の市場に浸透するとされており、今後の市場動向をみる上で、CESは重要な情報収集の場となっています。また、会期中に開催される米国IT企業のCEOらによる基調講演は、業界の次世代のビジョンを語る場となっており、その一挙手一投足が注目されています。今年のCESでも、例年どおり、マイクロソフトのビル・ゲイツ会長、インテルのクレイグ・バレットCEO、ヒューレット・パッカード(HP)のカーリー・フィオリーナCEOなどが基調講演を行いました。

 これらCEOの基調講演から、次世代の業界の方向性として、高画質・大画面薄型テレビを中心に部屋をホームシアター調に仕立て、同画面に対して一つのコンソール(ハブ)から指令を出し、インターネット接続、インターネット電話、DVD録画・再生、ゲーム、音楽、映画、ホームビデオ、デジタルカメラ、イメージング・プリントなどのすべてを楽しむことのできるデバイスの開発がより一層を進むものと思われます。また、同コンソールには遠隔からもワイヤレスでアクセスでき、外出先のコンピュータや携帯電話で家のテレビやコンテンツを見ることができましょう。日本ではこれらを一般に「ユビキタス家電」などと呼んでいますが、米国では、「デジタル・ホーム」、「デジタル・モバイル・ヴァーチャル・パーソナル」(フィオリーナCEO)などと表現しています。

【HP、ホーム・エンターテイメントに注力】

 米国のIT業界では、長い間、パソコン(PC)やインターネットに取って代わる次世代のイノベーション分野を模索していましたが、2002年頃から、次はデジタル情報家電の時代を迎えるとのビジョンが前述のCEOらから示されていました。事実、パソコンメーカーであったHPやデルなども、2004年からプラズマテレビ市場などに新規参入するなど、数多くデジタル家電製品を扱うようになりました。

 今年のCESでは、HPのフィオリーナCEOが約90分にわたるプレゼンテーションの中で、プラズマテレビやシネマ・プロジェクター、メディア・ハブなどの新製品を紹介するとともに、「シュレック」などのアニメーション映画制作で知られるドリームワークス・アニメーションSKGのジェフリー・カッツェンバーグCEOや、米国の女性人気ポップ歌手、グウェン・ステファニー氏やヴァネッサ・カールトン氏らを会場に招き、ホーム・エンターテイメント分野にも注力するHPを積極的にアピールしていました。

そうしたアピールの中で、歌手のステファニー氏自らがデザインしたという「原宿」と書かれたデジタルカメラが披露されました。ステファニー氏は、フィオリーナCEOとの会話の中で、デジタルカメラについて、「数年前に日本に行った時に、日本の若者がデジタルカメラを格好よく使っていたのが非常に印象的だった」と、何度も「日本、日本」と連発し、HP製のデジタルカメラを宣伝しにきたのか、日本がデジタルカメラなどデジタル情報家電のクールな文化の発祥地であることを宣伝しにきたのか、分からなくなるような一幕もあり、にんまりした日本人関係者も多々いたことでしょう。まさに"Japan is Cool"なのです。

【激化する価格引き下げ競争】

 CESでは、とかくハイエンドで最先端製品に注目が集まりがちですが、その中で、TCLや長虹電器などの中国の大手家電メーカーも数多く出展参加しており、液晶やプラズマなどの大画面薄型テレビを堂々と展示しておりました。特にTCLは、2004年7月、フランスの大手家電メーカーであるトムソンとTTE(株式保有はTCL67%、トムソン33%)という合弁会社を立ち上げており、今回のCESでは、2005年には家庭で手頃な価格で購入できる大画面ワイドスクリーンテレビ(RCAブランド)を北米市場に本格投入すると発表しています。それによると、52インチの液晶パネルが1100ドル、44インチのDLPテレビが2000ドル以下で売り出されるといいます。

 また、シンセンのSCTオプトロニクス社も、今後、本格的に米国進出を果たしたいとしており、46インチのプラズマテレビを、シンセンの工場出荷価格で、1台1990ドルで出したいといいます(交渉による引き下げの余地あり)。

 このように、わずか1〜2年前までは、1インチ1万円(あるいは1インチ100ドル)を目標に各日本メーカーなどは大画面薄型テレビの技術開発を進めてきましたが、SCTオプトロニクスの提示価格からも分かるように、今後ますます価格の引き下げ競争が激しくなることは必至で、プラズマテレビなどがコモディティ化するのも、時間の問題だと考えられます。

 前述の業界の相場感からは、北米市場でデジタル・ホームが定着するにはあと1年半から2年かかりますが、一般家庭で手頃な価格で大画面薄型テレビが購入できるようになるにはさらなる価格の引き下げが必要で、こうした価格引き下げ競争の中、北米市場でそのように市場シェアを伸ばしていくかが、日本企業のみならず、米国企業の間でも大きな課題となっているのです。

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