BaySpo 706号(2005/02/11)掲載
ニュー・シリコンバレーの時代
〜2005年シリコンバレー・インデックスが示す新たな地域像〜
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 星野岳穂
星野 岳穂(ほしの たけお)

1962年生まれ、東京都出身。1987年通商産業省(現 経済産業省)入省、電子機器課、地球環境対策室、航空機武器宇宙産業課、原子力産業課、鉄鋼課等に在任し、主として産業振興、技術開発政策を担当。2004年7月、JETROサンフランシスコに勤務。


 シリコンバレーの主要な産官学メンバーをスポンサーとするジョイントベンチャー・シリコンバレー・ネットワークという団体は、同地域の各種指標をまとめた「インデックス・オブ・シリコンバレー」を毎年一回公表しています。去る一月二十七日、最新データの発表イベントがHPパビリオンで開催されました。早朝から約八百名近いスーツ姿の関係者が集まり、冒頭には全員で米国国歌を斉唱する等、日頃のシリコンバレースタイルとは一味違った雰囲気を味わえました。今回の発表で強調されたのは、シリコンバレー地域経済の成長過程が変わりつつある、ということです。従来は、新規企業の成長とともに地域の雇用者数も増加し、企業と地域が同時拡大してきました。しかし最近四年間を見ると、シリコンバレーでは四年前のピーク時と比較して実に二十一万人の雇用が失われた一方で、地域の付加価値額はバブル後も減少に転じることなく常に増加し続けています。雇用なき地域発展という新たな段階が始まっている、というのが今回のメッセージです。

 それでは、シリコンバレーの活力の源泉である、ベンチャー企業の動向はどうでしょう。興味深いことに、シリコンバレーではITバブル後も新規起業数は増加し続け、過去四年間の起業数は約二万件、シリコンバレーの企業の四十六%が最近五年間に創設された企業となっています。この間、廃業した企業より起業した企業数の方が多く、ネットの企業数も増加しています。そして昨年は、急成長企業(最低百万ドル以上の売上高の企業で、最近四年間に二十%以上の収入増加を示した「ガゼル」企業(注:ガゼルとは、アフリカやインドに生息する駆け足の速いレイヨウという動物。)の数が十三社(昨年は九社)になり、バブル崩壊以降初めて前年比増となりました。

 ベンチャー・キャピタルのシリコンバレーへの投資額も、これまでバブルをピークに激減し三年連続で対前年比マイナスとなっていましたが、昨年はITバブル崩壊後初めて増加に転じ、前年度比十五%増となりました。分野別シェアでは、ソフトウェア、半導体関連が大きくシェアを伸ばしています。今のシリコンバレーを人間に例えれば、これまで運動能力とともに体格も成長してきた十代のトップアスリーツが、いよいよ二十代を迎えて身長の伸びこそ止まったものの、一層の新陳代謝で古い細胞を常に新しい細胞に置き換えつつ更に自己の持つ世界記録を伸ばしていく、といった姿を連想します。

 こうしたシリコンバレー再始動の背景に、連邦政府のR&D投資動向が影響を与えている可能性があります。企業の売上高に対する研究開発投資比率を十五%も減少させている一方で、シリコンバレーに対する連邦政府の研究開発投資額は二〇〇二年の十億ドルから二〇〇三年には三十二億ドルと爆発的に増加しています。増加分の大半は国防関連R&Dですが、非軍事関連のR&D投資額も同時期に五十五%増となっています。同地域が転機を迎えているこの時期に、政府による巨額の研究開発投資が流入していることは、国家としても当地のハイテクビジネス創出機能を減退させないよう支援強化を図っているという意図があるのではないか、との見方もできます。政府のR&Dからのスピンアウトで、再び世界を揺るがすイノベーション、新技術が登場するのかも知れません。

 シリコンバレーのもう1つの新たな姿として、人種構成の変化が示されました。これはここ数年の急激な変化というわけではありませんが、九十三年から二〇〇三年にかけて、白人系の比率は六十%から三十七%に急減する一方、アジア系は十九%から三十六%に増加し、白人系とアジア系との人口比率がついに昨年、ほぼ同レベルに到達しました。比率逆転は時間の問題でしょう。世界の中心シリコンバレーは今やアジアが支えるのです。シリコンバレーとアジアとのネットワークが、今日の中国、インド、韓国、台湾等各国の産業技術力の背景となっているのは疑いようもありません。ところが、シリコンバレーで雇用を創出している外国企業の国籍別トップは中国でもインドでもなく、日本なのです。七千七百人の雇用を生み出しているそうです(第二位が台湾、第三位はドイツ)。シリコンバレーと日本との深い関係を改めて認識するとともに、そうした現実と合わせて、もっと日本のプレゼンスをこの地で高め、日本とシリコンバレーとの人的ネットワークを強めていかなければ、と思います。その意味でも、一人でも多くの日本人の方々にニュー・シリコンバレーへのチャレンジをして頂くよう、ジェトロサンフランシスコとしてもできる限りの支援を続けたいと思っております。

 余談ですが、ジョイントベンチャー・シリコンバレーネットワークの発表会場で、ベンチャー数社がブースを設けて製品紹介をしていましたが、その中のいくつかはITではなくロボット関係で、しかもそれが地元高校生による発表でした。中身のレベルは別として、それを笑いもせず、高校生の説明に真剣に耳を傾けるスーツ姿の地元ビジネスマンの光景が印象的でした。

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