BaySpo 708号(2005/02/25)掲載
米政府、IP電話の安全性について警告
〜安全性確立に向けた団体の設立も〜
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 村松 洋介
村松 洋介(むらまつ ようすけ)

1964年生まれ、神奈川県出身。1988年国税庁入庁。旧大蔵省国際金融局、高松国税局、旧大蔵省理財局、福岡国税局等に在任し、2003年8月からJETROサンフランシスコに勤務。


 米政府は、本年1月、IP電話の安全性を警告するレポートを発表しました。レポートでは、この問題を注意深く考慮することなしにIP電話システムを導入することを強く戒めています。一方で、このたびIP電話の安全面での問題を克服することを目的とした団体も初めて設立されたところであり、今後はセキリティ対策が本格化していくものと見られます。今回はシリコンバレーにも関係が深いと思われるIP電話の安全性を巡る最新の動きについて考えます。

【米政府レポート、IP電話の安全性を警告】

 最近、常時接続・固定料金制のブロードバンドインフラの発展によって、既存の種々の通信方法をこの上に乗せる試みが始まっています。このうち、VoIP(Voice over Internet Protocol)すなわちIP電話は、音声電話をインターネットに乗せ、無料あるいは低額の固定料金で通話などに利用するものです。最近、IP電話システムを導入する動きが企業などの間で強まっているようです。

 ところが、米国の政府機関に技術上の指針を提供している「米国標準技術局(National Institute of Standards and Technology)」(注1)は、本年1月、「IP電話システムの安全面での考慮について(Security Considerations for Voice Over IP Systems)」というレポートを発表し、その安全性について警告しました(注2)。

 まず、本レポートは、「IP電話は従来型の回線電話とは構造が大きく異なっており、こうした相違が安全面での重大な問題を引き起こしている」とし、「IP電話も他の多くの新技術と同様に、安全面でのリスクを孕んでいる」と述べています。そして、「費用がより安くて済み、またより柔軟な使い方が可能になるかもしれないけれども、安全面での問題を注意深く考慮することなしにIP電話システムを導入すべきではない」と警告しています。具体的には、「デジタル化された音声がパケットの形で伝達するのだから、IP電話のパーツをすでに安全が確保されているネットワークにただ単に接続すればいいと考えているのだとすればそれは誤りである。そのプロセスはそれほど単純なものではない」と注意を促しています。なぜなら、「IP電話システムは多くの複雑な要素を既存のネットワーク技術に付け加えることになる」からだと説明しています。

【IP電話の技術を採用する計画を見直す動きが出てくるとの観測も】

 本レポートは、このようにIP電話の安全性について警告した上で、対策としていくつかの提言を掲げています。例えば、IP電話システムを導入する場合に情報システムの運営やその継続性にどのようなリスクがあるかを調査し、そのリスクを管理したり軽減したりすることができるかを考えるべきこと、IP電話では緊急電話通報(911番通報)の際に自動的に通報者の位置が特定できる機能が備わっていないこともあるので、この点について特に考慮すべきこと、停電時にも稼動を保障するバックアップシステムにどれだけのコストがかかるかを見積もっておくべきことなどを提唱しています。

このように本レポートは、IP電話システムの安全面での問題を十分把握すべきこと、そして導入するとした場合の留意点を指摘しているものですが、今回の警告によって、企業や政府機関の間にIP電話の技術を採用する計画を見直そうとする動きが出てくるという観測もあります(2月3日付「ファイナンシャル・タイムズ」紙)。

【IP電話の安全面での問題を克服することを目的とした団体が設立】

 しかし、IT企業らは上記のようなIP電話の安全面での問題を座して見ているわけでもなさそうです。2月7日、こうした安全面での問題を克服することを目的とした団体が初めて設立されたからです。「VoIPセキュリティ・アライアンス(VoIP Security Alliance)」という団体がそれであり、IP電話の安全面のリスクを企業らが理解しそれを回避するのを手助けすることを目的としています(注3)。この団体の1つの特徴は、IP電話のプロバイダーや大学、セキュリティの専門家など広範囲の支援を得ていることです。

具体的には、スリーコム(3Com)、アルカテル(Alcatel)、アバヤ(Avaya)、シーメンス(Siemens)、シマンテック(Symantec)などのほか、コロンビア大学、カリフォルニア大学デービス校なども参加しています。なお、IP電話の安全性について警告した前記の米国標準技術局もメンバーとなっています。今後は、この分野での研究の助成、技術的に脆弱な部分の発見、安全面の脅威とその対策についての情報の普及、ネットワークの安全性のレベルを測定するオープンソース・ツールの提供などの活動を行っていくものと見られています(2月9日付「ウォールストリート・ジャーナル」紙)。

(注1) 米国標準技術局(National Institute of Standards and Technology)のURLは左記を参照。

http://www.nist.gov/

(注2) IP電話システムの安全面での考慮について(Security Considerations for Voice Over IP Systems)

http://csrc.nist.gov/publications/

nistpubs/800-58/SP800-58-final.pdf

(注3) VoIPセキュリティ・アライアンス(VoIP Security Alliance)のURLは左記を参照。

http://www.voipsa.org

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