BaySpo 712号(2005/03/25)掲載
高まる日米企業のアライアンス意欲
〜デジタル情報家電をテーマに日米業界関係者が議論〜
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 田中 一史
田中 一史 (たなか かずし)
東京生まれ。1990年ジェトロ入会。海外調査部アジア大洋州課、マニラ・センター調査部、「世界は今」(日経CNBC等)の番組ディレクターなどを経て、2002年3月、サンフランシスコ・センターに広域産業調査員として着任。

 ジェトロでは3月3日、シリコンバレーで、情報家電時代における日米企業のアライアンス促進を目的とした国際シンポジウムを開催しました。関係者としては、本シンポジムを通じて、「情報家電」という日本企業の強みを強調することでの日本への関心喚起、あるいは、「中国や台湾などへの生産アウトソーシングこそが正しいビジネス戦略で、日本の垂直統合型ビジネスモデルは古い、閉鎖的」といった昨今の米国マスコミの風潮を正すべく願いを込めての開催といった側面もありました。

【高齢化社会に果たす情報家電の重要性】
 「イースト・ウエスト・アドバンテージ:デジタル情報家電時代の成長戦略」と銘打ったこのシンポジムには、シリコンバレーを代表する情報家電、半導体、ファブレス企業関係者ら約220人が集まりました。米国での次世代のIT成長分野と注目されるデジタル情報家電分野で、米国企業より一足先に各種製品群を市場投入している日本企業の製品開発トップらから、次期製品のビジョンやマーケット創造などが聞けるということで大きな関心が集まりました。以下、その様子や議論の中身を紹介します。

 冒頭の基調講演を行ったジェトロ副理事長の塚本弘氏は、「なぜ今、日本のデジタル情報家電はアドバンテージを有しているのか」との問題提起を掲げ、その理由として、・ハイ・デフィニション(高品位)放送の普及に伴うビジュアル・テクノロジーの優位性、・自動車産業との密接な連携によって実現しているカーナビやITS(高度道路交通システム)の存在、・革新的な商品(ホーム・ネットワーキング、燃料電池、スマートカード、RFIDなど)に対する消費者の購買意欲を挙げた。さらに、日本は官民双方ともに、R&D投資の意欲が高まっており、最近は、シスコ・システムズ、AMD、イーストマン・コダックなど米国企業からのR&D投資もみられるようになったと紹介。続いて、基調講演を行った、米国半導体工業会(SIA)の政策担当バイス・プレジデントであるダリル・ハタノ氏は、2004年の半導体の出荷数は、情報家電向けが大きな伸びを示したとし、デジタルテレビが前年比47%増、携帯電話が30%増、デジカメが24%増と、パーソナル・コンピュータの14%増に比べて伸び率が大きいと述べた。また、日米ともにこれから本格的な高齢化社会を迎えるにあたって、家庭用メディカル・デバイスなどをはじめとする情報家電とその実用化を促す半導体チップの開発の重要性を訴えた。

【日米企業による次世代製品の開発と生産の融合を主張】
 パネル・ディスカッションでは、まず初めに、日米各社が15分で自社の情報家電戦略を披露した。東芝の山田尚志・首席技監(上席常務待遇)は、次世代DVDの特徴と優位性について言及。デジタルテレビ市場は順調に拡大を続けており、2006年の日本では76万台、米国では1.050万台に達するとの見通しを述べた。また、テレビ画面の大型化に伴い、高画質での録画などには次世代DVDが必要とのデータ的実証を示した。一方、HD‐DVDの特徴として、メーカーにとっては、工場で現行DVDの製造ラインをほぼそのまま流用できることから、設備投資を最小限に抑えられることや、次世代規格の創出によって模倣品の流出に歯止めがかけられるなどのメリットに触れた。

 他方、NECの福間雅夫・支配人兼システムデバイス研究所長は、ユビキタス社会に向けた同社のビジョンや、ユビキタス社会実現のための半導体産業の役割を述べた。特に、半導体のプロセス加工技術の微細化に伴い、開発部隊と生産部隊の融合が重要だとし、90ナノメートル以下の微細化は歩留まり率をいかに引き上げるかが業界の大きな課題となっていることを明らかにした。また、富士通の八木春良・LSI事業本部長代理兼あきる野テクノロジーセンター長も、ユビキタス社会に向けた同社のビジョンを述べるとともに、新たなファンドリー・ビジネスモデルとして、最先端半導体設計における発注元企業との共同開発が必要不可欠となっており、それぞれの強みを生かしたアライアンスの重要性を訴えた。また、そうした日米アライアンスの具体例として、同社による今年1月の米スタッカートとのワイヤレスUSBおよびウルトラワイドバンド向けのCMOSシングルチップ・ソリューションの世界市場向けパートナー契約や、2003年4月の米ラティス・セミコンダクターとのFPGA製品(大規模集積回路)の開発生産契約を挙げた。

【米国勢も日本企業とのパートナーに多大な意欲】
 一方、米国企業からは、世界最大のグラフィックチップメーカーであるエヌビディアのタナー・オズセリック・ゼネラル・マネージャーが、様々な情報家電製品に搭載される自社のグラフィックチップの位置付け(映像を綺麗に映し出す技術)や、日米の情報家電製品の差異について触れた。特に日米の製品の違いについては、次世代DVDレコーダー(ソニーのブルーレイ)、携帯電話のアプリ、カーナビなど日本製品の方が、米国製品より一歩先を行った製品が主流となっていると説明した。また、ソニーと次世代ゲーム機の「プレイステーション3」に搭載される次世代グラフィックチップの開発を共同で進めていることを披露した。

 また、半導体のパッケ―ジング技術のライセンス供与を行っているテセラのデビッド・タッカーマン・上級副社長兼最高技術責任者(CTO)は、半導体のSiP(システム・イン・パッケージ)における微細化実現に向けた、ライセンスの供与先である半導体会社との共同デザインの重要性や課題に言及した。特に、IP(知的財産)だけあっても、実際に作動する商品の実現には結び付かず、それ故に(高い生産技術を持つ)日本メーカーとの共同開発は大変重要であるとの見解を示した。

【日本企業に対する認識ギャップの是正に貢献】
 続いて行われたパネル・ディスカッションでは、まず、「日本企業はソフトウェアの開発力が弱く、iPodのような商品開発がなぜできないのか」との質問が寄せられた。これに対して、2001年までソニー・エレクトロニクスにいたエヌビディアのタナー氏が、「ソニーも(iPod発売前の)99年には、既に"ネットワークウォークマン"と呼ばれるポータブルプレイヤーを発売し、音楽もダウンロードできる機能を有していたが、パソコン周りの使い勝手が悪かった(結果、あまり普及しなかった)。一方、iPodはすべてを簡素化し、使い勝手が良い。日本はソフトウェアをいかに使うかを知らないという問いに対しては、iPodの例だけを挙げて論じることは賛同できない」との考えを示した。

 次いで、NECの福間氏に対して、「ハードウェアとソフトウェアの垂直統合が大事であると主張しているが、そうであれば、ソフトウェアのIPも自社のものでなければいけないのでは」との質問があった。これに対して同氏は、この考えに賛同しつつ、「素晴らしいIPを持つパートナーがおり、そのIPを顧客にディストリビューションしてもよければ他者のIPをライセンスインすることは有り得る。要は契約の問題であろう」との考えを示した。

 また、富士通の八木氏に対しては、「日本の垂直統合型企業(IDM)は、外部のベンダーから戦略的IPをライセンスインせずに、インハウスで行うと理解しているが」との質問が寄せられた。この質問に対して八木氏は、「1企業がすべてを自社で行う時代は去った。当社はいつでも最高のIPがあればライセンスインする構え」だとし、「この議論は過去の話」と一蹴した。

 最後に各スピーカーには、日本は20年後、米国、中国、日本という3局の経済圏で、どのような影響力を及ぼすかとの見解が求められた。これに対して、ジェトロの塚本氏は、「将来を予測するのは困難だが、1つ明白なことは、日本は生産に直結したR&D能力の向上とリーダー的役割を担う」との見解を示した。また、NECの福間氏は、「当社では開発と生産現場の同一立地を推進しており、両者の融合によって技術移転が容易になっている」とのメリットを挙げた。

 日本企業に対する米国側の認識不足や思い込みによる質問も多くあったが、本シンポジウムなどを通じて、日米間の認識ギャップの是正も図られた。実際、シンポジム終了後、日本のIDMに対する見方("閉鎖的なイメージ"から"オープンなイメージ"に)が大きく変わったことや、日本企業によるユビキタス社会のビジョン(米国では今のところ"デジタル・ホーム"(家庭内でのワイヤレス・ネットワーク)が主流)が興味深い、印象的であった、との感想が多数寄せられた。

(参考)各スピーカーのプレゼンテーション資料は以下のURLで閲覧できる。
http://www.jetro.org/index.php?option=com_events_jetro&content=detail&event_id=30&Itemid=199

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