BaySpo 714号(2005/04/08)掲載
FCCの新委員長にマーティン委員が昇格
〜パウエル氏の規制緩和路線を継承か〜
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 村松 洋介
村松 洋介(むらまつ ようすけ)

1964年生まれ、神奈川県出身。1988年国税庁入庁。旧大蔵省国際金融局、高松国税局、旧大蔵省理財局、福岡国税局等に在任し、2003年8月からJETROサンフランシスコに勤務。


 ブッシュ大統領は3月16日、FCC(Federal Communications Commission/連邦通信委員会)の新委員長に、委員の1人であったケビン・マーティン氏(共和党)を任命しました。同氏は、パウエル前委員長の規制緩和路線を継承すると見られています。FCCは米国の電気通信分野に関する規制の策定、許認可を行う行政委員会で、その政策のあり方はブロードバンドやIP電話の普及に大きな影響を及ぼします。今回はシリコンバレーにも関連が深いと思われるこのテーマを取り上げます。

【ブッシュ政権と関連の深いマーティン氏】
 新委員長のケビン・マーティン(Kevin J. Martin)氏は現在38歳で、2001年7月からFCC委員の職にありました。それ以前は、ブッシュ大統領の下で、経済政策に関する大統領特別補佐官を務めています。なお、同氏は、ハーバード・ロースクールの出身でもあります。

 マーティン氏は、「米国の利用者が引き続き世界で最高の電気通信システムの恩恵を享受できるよう、政権、議会、同僚、FCCの有能なスタッフと一緒に仕事をしていくのを楽しみにしている」と述べました。また、退任するマイケル・パウエル委員長(コリン・パウエル前国務長官の子息)も、「マーティン委員が委員長に任命されたことを祝福する。彼は電気通信政策に関する幅広い知識を有し、また急速に変化する電気通信技術の本質を理解しているので、FCCを良い方向に導いてくれるだろう」とのコメントを発表しました。

【マーティン氏の調整能力に期待】
 新聞各紙の論調を見ると、まずマーティン氏の手腕に期待する論調がいくつか見られます。「ニューヨーク・タイムズ」紙(3月17日)は、同氏を「現実的で独立心を有した法律家」とみなすとともに、「委員として過去4年間で政治的な技能や立ち振る舞い方を身につけたので、規制緩和を実践的に促進するとともに、各方面から支持を取りつけることが可能となった」と同氏の能力を高く評価しています。また、「ファイナンシャル・タイムズ」紙(3月17日)は、マーティン氏がパウエル氏の後任として最有力の候補者であったことに触れるとともに、ブロードバンド産業の規制緩和などを進展させていくものと予想しています。

【議会による米国通信法改正への対応などが課題】
 次に、「サンノゼ・マーキュリー」紙の社説(3月21日)は、マーティン氏はシリコンバレーにとっても非常に利害関心の高い争点について判断を下すことを迫られているとして、SBCとAT&Tなどの一連の巨大合併の審査、IP電話に対する規制のあり方、議会による米国通信法の改正の事例などを挙げています。

そして、同氏はこうした多くの争点でパウエル氏の規制緩和の哲学を継承するとみられますが、一律に規制緩和を推し進めると利用者の利益を損なったり技術革新の進展を阻害したりする恐れもあるので、規制緩和策には項目ごとの場合分けが必要であることを指摘する論調となっています。

WSJ紙はマーティン氏の手腕を疑問視】
 論調が大きく異なるのが「ウォールストリート・ジャーナル」紙の社説(3月17日)です。同紙は、マーティン氏がパウエル氏の規制緩和策の実行を弱めてきた側面があることを指摘し、同氏が今後、このような誤りを犯すことのないよう主張している点で異彩を放っています。同紙がマーティン氏の手腕を疑問視する例として特に挙げているのは、パウエル氏が地域電話会社が通信回線網を低額で長距離通信会社に開放することを義務付けている規制を撤廃しようとしたときに、マーティン氏がこれに異議を唱えたことです。同紙はマーティン氏が競争的な市場原理に基づいて行動しないで、AT&Tのような政治的に関連の深い企業の意向に左右されてしまったことを批判しています。そして、マーティン氏の犯した誤りは、同氏が市場原理に反対しているというよりも、それは政治的なご都合主義(political expediency)から生じたものと見ています。このように同紙では、マーティン氏の現実主義や政治的な配慮が、むしろ規制緩和路線の推進に阻害になるという見方を提示している点で興味深いように思われます。

【ホワイトハウスや議会との密接な関係が強み】
 最後に、シンクタンク研究員の見解を見ると、パシフィク・リサーチ・インスティテュート(Pacific Research Institute)のソニア・アリソン(Sonia Arrison)氏は、ジェトロ・サンフランシスコのインタビューに答え(3月22日)、「マーティン氏は過去、委員としてブロードバンドの推進などに関して良い仕事をしてきた」と評価しました。そして、「同氏は、カール・ローブ政治顧問やブッシュ政権内部の関係者とも密接な関係を持っている。したがって、同氏が実行しようと試みた政策はどんなものであっても、ホワイトハウスや議会の強い支持を受けることになろう」とコメントしました。

 いずれにしましても、マーティン新委員長がどのようにFCCを舵取りしていくのか、今後の動向が注目されると言えるでしょう。

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