BaySpo 718号(2005/05/06)掲載
米国情報産業の抱える不安
〜アジア戦略に見直しはあるか〜
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 星野 岳穂
星野 岳穂(ほしの たけお)

1962年生まれ、東京都出身。1987年通商産業省(現 経済産業省)入省、電子機器課、地球環境対策室、航空機武器宇宙産業課、原子力産業課、鉄鋼課等に在任し、主として産業振興、技術開発政策を担当。2004年7月、JETROサンフランシスコに勤務。


 先般のSIA(米国半導体工業会)の発表によれば、昨年一年間の世界全体の半導体売上高は、対前年比で二十八%増の2130億米ドルに達し、これはITバブル絶頂期の2000年の2044億米ドルを抜いて過去最高の記録となりました。背景には、世界パソコン市場の出荷台数が前年比一割以上の増加率で一億九千万台に達したことに加え、携帯電話や情報家電も絶好調であったことが挙げられます。

 しかし、こうした明るい状況とは裏腹に、最近、米国では、情報技術分野の競争力が「しのびよる危機」に直面しているのではないかという不安を示す議論が目立ちつつあります。確かに、半導体需要の牽引役は中国を中心とするアジア地域(日本を除く)で、成長率は実に四十%を超えています。そして更に問題なのは、SIAが先月(本年四月)発表したとおり、世界半導体市場のほぼ半分を米国メーカーが押さえているにも関わらず、最新製造ラインである300mmウエハ新設工場の三分の二はアジア地域、特に中国で建設されており、米国内は二割しか建設されていないという事実です。SIAは、その原因は中国等の安い人件費ではなく、優遇税制等の国家産業政策に依るものだと批判し、米国も対抗して優遇策を講じるべきだと主張しています。もちろん個別に見れば、インテルは既にマイクロプロセッサの80%以上を300mmウエハで製造しており、今年も新工場建設に一千億円を投資すると前向きですが、米国全体で見ると半導体生産シェアが低下しているのです。

 他方、人材面でも暗雲が立ちこめています。UCLA調査に基づいてCRA(計算科学研究協会)が先月発表した資料では、過去4年間に、米国大学のコンピュータ・サイエンスの専攻予定者が六十%も減少し、八十年代初頭のピーク時から七十%も減少しています。新入生の関心の度合いで数年後の専攻学生数はかなり正確に予測可能で、今後、コンピュータ・サイエンスの学位取得者は大幅に減少する可能性があると指摘しています。特に女子学生に不人気だそうです。背景には、ITバブルの崩壊や海外アウトソーシングによる雇用減少が挙げられますが、ある意味で将来に一番正直な学生がITを敬遠しつつあるのは、パソコン等はもはやどの国でも可能な汎用品と見限っているのか、あるいはIT製品は既に過剰機能、あるいは過当競争の世界であり「クール」な最先端科学技術では無いとの印象を持っているからかも知れません。

 そうはいっても、今日、米国にとって情報技術分野は単なる重要産業ではなく、安全保障上の最重要分野であることは論を待ちません。この分野で他国が台頭し、米国が情報技術分野で優位性を失っているとの懸念が広がれば、米国の世論も政府も何らかの行動を起こさないはずはないことは、長い日米経済関係での経験から私たちが一番良く知っているところです。

少し古い話になりますが、昨年11月にシリコンバレーで開催された公開討論会「TechNet Innovation Summit」では、サンマイクロの共同創業者ビル・ジョイ氏やKPCBパートナーのドーア氏をはじめとする豪華パネリストが、無線インターネットやモバイルコンピューティング等の新分野で引き続き情報技術分野の将来は明るいとする反面、それらの分野で中国、インド、韓国に米国が脅かされつつあるとの懸念を表明しています。そして、その原因の一つとして、米国自身の移民政策により、米国の大学でハイテク分野の最高水準の学位を取得したこれらの国々の留学生が本国に戻り競争力を高めているという点を指摘しています。

 また、先月下旬に開催された政府の諮問機関である米中経済安全保障検討委員会は、今や中国は完全なハイテク大国であり、多くの米国企業が中国に研究センターを設立する等ハイテク業務を移転する傾向にあると認めた上で、同国は企業の知的財産権保護の環境整備が整っていないこと、中国政府が安全保障上重要な技術を持つ企業を誘致している等の懸念や意見が交わされていました。

 一方でIBMが中国レボノにパソコン部門を好条件で売却して利益を上げつつ、他方で技術や雇用がアジアに流出するといって心配するはいかにも米国的とも言えますが、いずれにせよハイテク産業は、いつの時代も必ずしも無条件、無制限に企業活動が許されるとは限らないという現実と過去の教訓があります。日米双方の企業とも、アジア戦略は十分慎重に見定めるべきでしょう。そうした中で、米国企業にとって、相互補完関係を安心して継続し、アジア戦略を共同で考えるパートナーとして、日本企業とのアライアンスを改めて重視する時期に来ていると言えます。そのためにも、日本人のシリコンバレーでのプレゼンスを飛躍的に高めることが、またとない絶好のチャンスではありませんか。

有澤保険事務所

自動車保険をはじめ、火災保険、アンブレラ、ビジネス保険、労災保険、生命保険、健康保険などを取り扱う総合保険会社です。Farmers
Insurance、Blue Cross等のエージェントであり、日本語できめ細やかな安心のサービスを提供しています。

有澤保険事務所
2695 Moorpark Ave, Ste 101, San Jose, CA, 95128
http://www.arisawaagency.com

有澤保険事務所
(408) 449-4808
No Reproduction or republication without written permission
Copyright © BAYSPO, Inter-Pacific Publications, Inc. All Rights Reserved.