BaySpo 720号(2005/05/20)掲載
州の幹細胞研究本部、サンフランシスコに決まる
〜ベイエリア全体にとって大きな朗報との声〜
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 村松 洋介
村松 洋介(むらまつ ようすけ)

1964年生まれ、神奈川県出身。1988年国税庁入庁。旧大蔵省国際金融局、高松国税局、旧大蔵省理財局、福岡国税局等に在任し、2003年8月からJETROサンフランシスコに勤務。


【サンディエゴとの決選投票でサンフランシスコに軍配】
 昨年11月、アルツハイマー病や糖尿病などの治療に有益とされる幹細胞研究(stem sell research)に対して、向こう10年間で30億ドルの資金を拠出する住民提案71号が可決され、「カリフォルニア再生医学研究所(the California Institute for Regenerative Medicine)」が設立されました。研究所の本部は、現在、暫定的にエミリービルに置かれていますが、正式な本部の設置場所については、いくつかの条件をつけて公募が行われることとなりました。このため、主要自治体は、幹細胞研究所の本部設置がもたらす「バイオセンター」という象徴的なイメージによって、ひいてはバイオテク企業の集約が期待できるという見通しなどから、ここ数ヶ月間、積極的な誘致活動を展開してきました。立候補した自治体の選抜は段階的に行われ、サンフランシスコ、サクラメント、サンディエゴの3つの都市が、5月6日の最終選考にかけられました。その最終選考では、当初から有力と見られていたサンフランシスコとサンディエゴの両都市間の決選投票にもつれこみ、結局、サンフランシスコが16対11で選出されるに至りました。本部予定地は、発展著しいミッション・ベイ地区の野球場(SBCパーク)に近接した場所となっています。

【サンフランシスコ市長が利点を積極的にアピール】
 それでは、サンフランシスコの提案を見てみますと、ギャビン・ニューサム(Gavin Newsom)市長は、サンフランシスコが幹細胞研究所の本部としてふさわしい理由をいくつか挙げています。その主な理由は、
1. サンフランシスコがUCSF、バークレー、スタンフォード大学という全米を代表する3つの生物医学の大学研究機関の中心に位置するとともに、世界最大のバイオテク・クラスターを形成していること

2. サンフランシスコが多様性と活気に満ちた国際的都市であるとともに、州内で最も整った交通システムを有していること

3. サンフランシスコの有権者は提案71号を州内で最も大差で是認していること

4. 本部予定地であるミッション・ベイは、UCSFの新キャンパスが計画されるなど最適の立地環境となっていること、というものです。

【高度に発達したバイオテク・エコシステム(ecosystem)で優位に】
 ジェトロ・サンフランシスコでは、幹細胞研究本部がサンフランシスコに決定されたことを受け、ベイエリア経済フォーラム(Bay Area Economic Forum)の会長であるショーン・ランドルフ(Sean Randolph)氏にインタビューを行いました(5月10日)。同氏は、今回の誘致競争について、「多くの都市が立候補したが、実質的には、ハイレベルのバイオテク・クラスターを擁するサンフランシスコとサンディエゴの競争であることが衆目の一致だった」と指摘しました。その上で、「サンフランシスコは、バイオテクの誕生の地であること、高度に発達したバイオテク・エコシステム(ecosystem)とR&Dの基盤を有していることで優位に立っていた」と勝因を分析しました。同氏は、特に、「サンフランシスコのバイオテク・エコシステムは、バイオテク関連のベンチャーキャピタル、バイオテクの法律問題に特化した法律事務所、バイオ関連機器メーカーを含んだものだ」とそのメリットを強調しています。そして、「研究所本部に選ばれたことによって、サンフランシスコの評判がさらに高まることを期待している」と語りました。

 また、ベイエリア協議会(Bay Area Council)の副会長(広報担当)であるジョン・グラブ(John Grubb)氏も、「我々は本部誘致に必死に努力してきたので、今回の決定に大変満足している」と述べました(5月9日)。その上で、「サンフランシスコでの幹細胞研究本部の設立をニュー・エコノミーの創造に向けた一つのステップと位置づけている」と指摘し、その理由として、「ベイエリアでは、いったん新しいアイディアや技術に投資することを約束すれば、大きな経済的成果を生み出してきた」という過去の歴史を挙げました。同氏は、「IT産業の興隆やシリコンバレーの成立自体がその例だ」とコメントしています。

【ベイエリア全体の未来にとっても重要な前進】
 今回の決定に関し注目されるのは、最終的にベイエリア全体での協力関係がうまくいったという指摘が多く出ていることです。例えば、「ザ・イグザミナー」紙の社説(5月9日)は、サンノゼやエミリービルの市長らが、幹細胞研究の本部がいかにベイエリアにとって重要かを理解しており、自らの市が選考の過程で落選した後にも、サンフランシスコの招聘を支持したことを挙げ、「今回の決定はサンフランシスコにとっての大きな勝利であるだけではなく、ベイエリア全体の未来にとっても重要な前進だ」と強調しています。

 一方で、今回の誘致活動が自治体間で激しく行われたこともあって、今後資金の配分を巡って、「えこひいき(favoritism)」などが起こらないように、クギを刺す見解が見られていることには留意が必要でしょう。例えば、「ロサンゼルス・タイムズ」紙の社説(5月9日)は、「サンフランシスコの勝利で競争が決着した以上、地域のバイオテク研究者にとって重要なことは、資金が公正、公開かつ民主的なプロセス(a fair, open and democratic process)を経て配分されることだ」と述べています。この点に関しては、ランドルフ氏も、「研究資金が納税者の税金である以上、公正に配分されなければならない」とコメントしているところです。

有澤保険事務所

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