米連邦通信委員会(FCC)は5月19日、VoIP(ボイス・オーバーIP=インターネット技術を用いたコストの安い電話サービス)事業者に対し、緊急電話番号の「911」番につながるシステム構築を強制的に義務付けることを発表した。同規則は今後45日以内に通達され、各VoIP事業者は通達後120日以内にシステム構築を行わなくてはならない。
【地域電話会社との業務提携が必至】
今回のFCCの決定は、一般家庭で使用されていたIP電話が911につながらなかったことで、殺人事件を未然に防げなかったことや、心臓発作の子どもを救えなかったという悲しい事件が相次ぎ、VoIP事業者等に対する世論の風当たりが強まっていたことによる。
VoIP事業者は、これまで911システムの構築が遅延していたのは、インターネット回線を使っていることで、電話の発信地の特定が難しいなど技術的な要因や、既存の911システム網は「Baby Bells」と呼ばれる民間の地域電話会社4社(SBC、ベルサウス、ベライゾン、クエスト・コミュニケーション)が提供しており、同社らとの業務提携に溝があることが指摘されていた。
しかしながら、今回の決定を受けて、VoIP事業者は、これら地域電話会社との業務提携を進め、一早いシステム構築が求められている。事実、殺人事件のやり玉にあげられていたVoIP事業者の最大手であるボネージ社は、現在、SBC社とベルサウス社と業務提携を締結し、近い将来、ベライゾンとクエスト・コミュニケーションとも合意に達する見込みであるという(ボネージ社)。しかしその一方で、同社のスポークマンは、「今回のFCCのルールは、VoIP事業者に大きな負担となる。新ルールでは、地域電話会社に対し、VoIP事業者の回線アクセス受け入れを義務付ける条項はない」として、ルールの改善を求めている。
【何故、今になって対応は可能なのか】
米国の有料ベースの家庭向けVoIP加入者数は、現在、142万6.200人おり、前期比3割増(2005年第1四半期)の勢いで増加している。最大の市場シェアを誇るのはボネージで53万5.000回線(シェア37.5%)、次いで、ケーブルビジョンの35万3.700回線(24.8%)、タイム・ワーナー・ケーブルの29万5.000回線(20.7%)と、これら大手3社で8割以上のシェアを占める。スカイプなどの無料VoIPサービス利用者を含めるとさらに多くの利用者がいることになろう。
さて、今回のFCCとVoIP事業者、さらには被害者(VoIPが911につながらなかったことで、両親が殺害された遺族や子どもを失った母親など)の言い分などを総括すると、・利用者が十分に使い方の理解せずに、VoIPは通話料が安いということで、普及していっていること、・結果として、VoIP事業者の利用者への使い方の普及啓蒙が十分ではなかったこと、などが挙げられる。さらに疑問なのは、何故、今になってFCCがVoIP事業者に911につながるシステム構築を義務付けると、向こう半年以内に同システム構築が可能となるのか?もしこのような短期間で実現可能とあれば、何故、問題が起きる前に、そういった対応措置をとらなかったのか?よくある議論である。
一方、スカイプなどのように親会社が米国籍ではない無料のVoIPサービス事業者なども今回の対象者となるのか?私の回りの在シリコンバレー・ビジネスパーソンの間では、プライベートでは、有料のVoIPサービスを利用している人よりも、スカイプを使っている人の方が結構いるような気がする。いずれにしても、今後はこの手の無料VoIPサービス事業者などに対する対応も大きな課題となろう。
最後に、是非、皆さんお使いのVoIPが911につながるか、万が一の時に備えて、家族やルームメイトなどの方ときちんと平時に確認していただくことをお勧めします。
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