米シリコンバレーのダイナミックな発展を支えているのはハイテクベンチャーであることは論を待ちません。当地でのベンチャー起業数は今でも増加しており、年間の起業数は二万社を超えています。しかし、会社創設自体は簡単でも、実際にビジネスを立ち上げる際には、事業資金の調達はもとより経営全般の知識、マーケティング、法的問題に至る様々なハードルに直面します。スタートアップ企業のこうした課題解決に対して、体系的にサービスを提供し、ビジネスが早期に軌道に乗るよう支援するのが、インキュベーション・センターです。一九八〇年に米国でバイドール法(米国政府の資金で大学が研究開発を行った場合でも、大学側や研究者に特許権を帰属させる法律)が制定されて産学連携が加速し、大学内にインキュベータが次々と設立されました。九〇年代には、ITバブルを背景としたベンチャー企業の急増に合わせてインキュベータも増加し、スペースや設備の提供のみならず技術支援や起業に関するコンサルティングなどの支援サービスに重点がシフトしていきました。先月バルチモアで開かれた全米ビジネスインキュベーション協会(NBIA)の年次総会には日米欧やアジアの各地域からインキュベータが集まり、各々の成功体験や資金調達方法の情報交換等、熱気のこもった議論が交わされました。NBIAによれば、全米では現在九五〇近いインキュベータが活動中で、米国以外の地域に比べても極端に多い数となっています。
ジェトロ(日本貿易振興機構)も、ワシントン、シカゴそして私たちSFセンターの運営するシリコンバレー(ビジネスイノベーションセンター:BIC)の三拠点でインキュベーション事業を行っています。BICは二〇〇一年から活動を始め、最大九社まで受入れ可能なオフィスをサンノゼの中心に構えています。現在までに十八社がBICを「卒業」され、うち六社が卒業後も米国に拠点を残して活躍されています。成功率は三割です。BICとしては、この打率を五割以上に高めることが当面の目標です。そのために、BICの運営も更なる効率化と柔軟化を図るべく、色々とリニューアルをいたしました。まず、本年に入り入居対象を拡大し、日本で実績のあるベンチャー企業の米国進出のケースだけでなく、既にシリコンバレーで活動している日本人の方がまず米国で先に起業する場合でも入居可能といたしました。更に今月から、ビジネスプランが成功可能かどうかを集中的に追求するために短期間入居する「ショートプログラム制度」も新設いたしました。スタッフも、坂本弘貴、高橋敬三、マット・ティグに加え四月からは黒岩ふさ子を新たに迎え、総勢五名の常駐メンバーで充実したクライアントサービスを目指しています。更に、サンノゼ市とサンノゼ州立大学が運営するIBI(インターナショナルビジネスインキュベータ)と長期協力関係を構築し、本年十一月にBICをIBI内に移転させ、入居企業の国際ネットワークへのアクセスの更なる強化を図ります。また、地元大学との連携強化も模索しています。(おまけに名前もロゴもリニューアルしてみました。)
ジェトロ・BICの役割は、シリコンバレーで活躍し成功する日本人起業家を続々と誕生させていくことであり、その意味では、限られた数の入居企業の方だけに留まらず、当地の日本人起業家の皆さん全員と直接間接の関係がとても大切になります。このため、日本人ネットワークの活動とできる鍵の協力関係を構築できればと思っています。既に本コーナーで昨年3月にも前任の中山次長が御紹介申し上げた起業家ネットワークのSVJEN、日本人技術者の当地活躍を支援するJTPA、異業種交流を目的とした歴史の長いSVMF、バイオ関係者のJBC、そして日本の大学や地方自治体の当地事務所関係者で構成するSVUUといった活気あふれるネットワーク団体との関係をより緊密にしていきたいと思います。先般、平強氏のお勧めでインド人ネットワークのTiEコンファレンスに参加しましたが、その活気と迫力に圧倒されました。会員数は七千人近いと聞きます。中国人も、四千人の会員を抱えるSCEAをはじめ様々な団体をいくつもシリコンバレーに持ち、その多くは千人以上のネットワークとなっています。日本は、質の面では決して負けていないのですが、数のパワーでは未だもうひと頑張りが必要です。幸い、日本国内の企業も最近は元気を取り戻したようで、昨年に比べてBICへの問い合わせ、あるいは訪問される企業数がかなり増えてきています。日本人起業家のシリコンバレーへのチャレンジ、是非皆で応援し、当地最強のネットワークを作り上げようではありませんか!是非、一度BICにお立ち寄り下さい。
(http://www.jetro.go.jp/services/incubator)
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