今秋、カリフォルニア大学マーセド校(UC Merced)が、カリフォルニア大学の10番目の分校として開校します。同校は、21世紀に開校する大学としては米国で最初の研究大学とされ、学際的な研究が特徴となっています。また、環境科学やエネルギーの持続可能性の問題などに主たる研究の焦点が当てられる見込みです。
【アーバイン校、サンタクルーズ校の開校以来、40年ぶりの新分校】
カリフォルニア州には、エリート型研究大学として、州立のカリフォルニア大学(UC)システムが存在します。カリフォルニア大学は、多額の研究開発費が投下され、特許取得の件数も多数を占めていることなどから、全米でも有数の研究大学として知られています。このUCシステムが、今秋、1960年代のアーバイン校、サンタクルーズ校の開校以来、40年ぶりにマーセド校を誕生させます。新キャンパスは、今秋1.000人の学生を迎える予定で、向こう30年から40年間で学生数は2万5.000人に達する見込みです。
【学際的な協同や研究が特徴】
学問面や研究面での特徴を見てみましょう。マーセド校は、工学、自然科学、社会科学・人文・芸術という3つの学部を有し、学際的な協同や研究を強調しています。また、同校にはシェラネバダ研究所と世界文化研究所が設立されています。シェラネバダ研究所は、ヨセミテ国立公園などと協同して、シェラネバダやセントラルバレーの環境的、物理的かつ社会的側面を考察していくことを目的としています。特に、同校が地理的特性として有している「自然の実験室(natural laboratory)」というプリズムを通して、全米のみならず国際的な諸問題への新しい知識を創造していくことが期待されています。具体的には、人類が環境的に持続可能な方法で生存していくために課題となるような重要な問題、例えば、人口増加と経済発展、水源、大気、生物多様性、気候変動、資源管理、公衆のレクリエーションなどの諸問題の研究に取り組むことになります。世界文化研究所は、カリフォルニアの変化しつつある人口統計およびその結果として生ずる社会的、文化的動向を理解することに焦点を当てた研究所です。
【エネルギー節約型のキャンパスにも特徴】
また、新キャンパスの設計上の特徴にも触れておくと、同キャンパスは現在建設中ですが、エネルギーや稀少な資源の持続可能な利用に配慮しています。例えば、自然光を最大限利用するエネルギー節約型の技術を取り入れ、冷暖房の必要性を減少させようとしています。また、デジタル技術を利用した教育ネットワークを作り出し、これを学生やコミュニティに提供しようとしています。このネットワークは、セントラルバレー全体の遠隔教育センターを結ぶものになるようです。
【教授陣は世界中から募集】
次に、カリフォルニア大学のロバート・ダインズ(Robert C.Dynes)学長のコメントを見ておきます。同学長は、研究者や教授らを世界中から募集していること、環境科学やエネルギーの持続可能性の問題などに主たる研究の焦点が当てられる見込みであること、実際、既に採用が決定した教授陣の中には、世界全体を視野に置いたエネルギーの持続可能性の問題に取り組んでいる教授が2、3人いることを語っています。
さらに、メディアでの報道ぶりを見ておくと、米国の主要紙、「ワシントン・ポスト」紙(5月15日)が、マーセド校の開校のトピックを取り上げているのが注目されます。同紙は、カリフォルニア大学のリーダーたちが、ゼロの段階から大学を作り上げることによって大学の概念を全く新しく作り直すことが可能になること、言い換えれば新しい効率性とイノベーションを持った大学の概念は既存の組織で生み出すのは難しいことを語っていたことを紹介しています。その一方で、真新しいキャンパスに投資を行うことはカリフォルニア州の予算事情が厳しい中にあって過度に費用のかかる解決策であるとの批判があったこと、そして、実際に財政危機ゆえに開校が1年間遅れたことにも触れています。また、同紙は、「最も画期的なことは、マーセド校が心理学科などの通常の学科の構造を廃止したことだろう」と指摘しており、同校の校長も学科の垣根を取り払って、自然科学や人文科学のように、より広いカテゴリーでゆるやかにグルーピングすることによって、学際的な協同を促進し学問上の縄張り争いを減少させることを望んでいることを伝えています。
【マーセド校の潜在可能性に注目を】
マーセド校は、まだ開校されていないため、評価が定まっているとは言えません。しかしながら、マーセド校の潜在可能性を伺わせるに足る要素は、いくつか見受けられるように思われます。それは、(1)学際的な研究の重視、(2)環境科学やエネルギー持続可能性の問題への積極的取組み、(3)地理的特性を背景としたシェラネバダ研究所の設立、(4)エネルギー節約型のキャンパス構造、(5)優秀な研究者の世界的募集、(6)UCシステムの持つ歴史的実績などです。とりわけ、「環境技術」や「エネルギー節約」が1つのキーワードとなっています。こうしたことから、この分野に関心を持つベイエリアの日系企業や研究者の方々は、何らかの協力関係を構築できるかもしれません。また、新しい留学先としての可能性もあるでしょう。前記「ワシントン・ポスト」紙は、マーセド校の校長が、キャンパスを見学に訪れた数百人の若者らを前に、「あなたがたは、開拓者(trailblazers)になるチャンスを持っている」と述べたと伝えています。このことは、日本企業や日本の研究者にとっても当てはまるように思われます。ゼロから新しい関係を構築できるチャンスとは言えないでしょうか。マーセド校は、今年9月6日に開校予定ですが、今後の動向が注目されます。
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