米連邦最高裁判所は6月27日、ファイル交換サービス企業2社に対し、ファイル交換ソフトのユーザーへの提供は音楽や映画などの著作権者に対する侵害行為にあたり、違法であるとの判断を下しました。音楽業界や映画業界では、今回の判決を評価する声がある一方で、当局の規制強化によるITイノベーションの後退を危惧する意見も出ています。
【相次ぐ係争】
米国でのファイル交換サービスの合法性を巡る裁判は、全米レコード協会(RIAA)が99年12月、当時のファイル交換サービスプロバイダー、ナップスターをサンフランシスコ連邦地裁に提訴して以来、裁判が繰り返されています。ナップスターについては2001年2月、同社が中央サーバーを利用しているため、ユーザー間のファイル交換に法的責任(著作権侵害の助長)があるとして、連邦地裁はサービスの中止を求め、同社は2002年6月に清算に追い込まれました。しかしその間にも、「ピア・ツー・ピア」(中央サーバーを介さずネットワーク上でファイル交換が簡単に行なえる技術)を利用したサービスが数多く出現し、著作権者との係争は後を絶ちませんでした。
今回の裁判は、米映画大手のMGMスタジオが、ピア・ツー・ピア大手のグロックスターとストリームキャスト・ネットワークを提訴したもの。このケースは、過去に他の裁判所でも審議が行われ、その際の判断は、両企業はただ単にファイル交換ソフトをユーザーに提供しているだけで、ユーザーが犯すかもしれない著作権侵害に法的責任を有さないというものでした(両企業のビジネスモデルはポータルサイトでの広告収入である)。
この判断の根拠となったのは、84年にソニーと米ユニバーサル・スタジオで争われた、いわゆる『ベータマックス訴訟』が挙げられています。米ユニバーサル・スタジオは、ソニーが販売するベータマックスを使ったユーザーのテレビ番組などの録画行為が著作権侵害にあたるとして提訴しました。しかし、その際の判決は、「ビデオ録画機器のユーザーの使用目的は、見たいテレビを録画し、見たい時に見ることであり、ソニーが意図的に著作権の侵害にかかわっている証拠がない」とされ、ソニー側の勝訴で終わりました。
しかし、今回の連邦最高裁の判決では、ピア・ツー・ピア企業は、故意的に大量の著作権侵害ファイルの交換を推奨しており、その場合は違法行為であるとの判断が下されたのです。
【ユーザーへの影響は】
米国には、ファイル交換ソフトの利用者は現在640万人いるとされています。今回の判決によって、多くのユーザーへの影響が予想されますが、すぐにファイル交換サービスのサイトが閉じられるわけではありません。連邦最高裁は、今回の判決では、裁判を下級裁判所に差し戻しており、再度審議が行われる予定です。下級裁判所では、これら2社が、ユーザーなどに対して、著作権侵害の助長や奨励をしているという具体的な証拠があるか否かが争点となります。
【イノベーション後退の懸念】
当然のことながら、映画業界やレコード業界では、今回の判決を歓迎する声が強まっています。RIAAでは、「連邦最高裁の満場一致の決定は、著作権産業に携わる1.100万人の生活と米国経済への脅威を取り除き、合法的なオンライン・ビジネスの将来における発展の布石となる」と評価しています。
一方、一部のマスコミでは、「ハイテク企業の要とも言える知的財産権の保護に対する連邦最高裁の判決は高く評価できるものの、オンライン・ビジネスなどにおける新たなガイドラインの策定など、当局の規制強化に向けた動きはシリコンバレーのハイテクIT企業のイノベーション意欲に水を差しかねない」と警鐘を鳴らしています。
近年、日本のアニメや映画、漫画、音楽などが米国でも普及し、人気を集めていますが、ファイル交換ソフトを通じて大量のコンテンツがユーザー間でやり取りされているとみられます。今回の連邦最高裁の判決によって、日本企業のコンテンツに対しても同様の著作権が保護され、結果としてコンテンツ収入が増加するのか、法制度の整備と収益の関係が注目されます。
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