BaySpo 730号(2005/07/29)掲載
止まらないアップルの快進撃

〜iTunesがいよいよ日本にも上陸〜

ジェトロ・サンフランシスコ・センター 星野 岳穂

星野 岳穂(ほしの たけお)

1962年生まれ、東京都出身。1987年通商産業省(現・経済産業省)入省、電子機器課、地球環境対策室、航空機武器宇宙産業課、原子力産業課、鉄鋼課等に在任し、主として産業振興、技術開発政策を担当。2004年7月、JETROサンフランシスコに勤務。


 今や、知らない人はいないiPod。七月十八日には、アップル社の有料音楽配信サイト「iTunes Music Store」で販売した楽曲数が五億曲を超えたとの発表がありました。一昨年四月にiTunesを始めたときは、最初の五千万曲に達するまで一年弱を要しましたが、現在の半分の二億五千万曲を超えたと発表があったのは僅か半年前の本年一月二十四日で、その勢いは凄まじいの一言に尽きます。一日当たりのダウンロード楽曲数は軽く百万曲を超えています。iPodに牽引されて同社主力のパソコンiMacも本年第一四半期の米国市場への出荷台数は対前年比四十五%増、市場シェアも四%弱(ガートナー社調べ)と、世界五位にランクインする復活を遂げています。当然、アップル社自体の業績も絶好調で、七月十三日に公表された同社の第3四半期決算は、売上高は前年比七十%増の三十五億二千万ドル、利益は三億二千万ドル(一株あたり三十七セント)と実に前年比五倍近い大幅増という、予想を大きく上回る結果となっています。アナリストからは、アップル社にiPodの勢いが止まった時のビジネス戦略が見えないとの懸念がしばしば指摘されますが、当面はその勢いは止まりそうにもありません。ソニーのウォークマンはハード面で音楽環境を革新しましたが、iPodはハードに留まらずソフト、サービスと一体化したデジタル世代のインフラとなっているからです。

 iPod人気に一気に火が付いたのは二年前、デザインを一新しウインドウズ対応のiTunesを発表した頃から昨年夏頃にかけてですが、実はiPod第一世代は四年前から発売されていました。興味深いのは、iPodの生みの親とされている当時三十代半ばのトニー・ファデル氏について、公式の情報が少ないことです。一部の報道によれば、ファデル氏は1990年代末に、MP3プレーヤーとナップスター的な有料音楽配信サービスを組み合わせて完全なビジネスモデルを構築し、自ら会社をシリコンバレーに創設すべくフィリップス社を退職して独立。ところが、複数社を回ってアイデアを売り込んでも反応が悪く資金調達に失敗し、唯一アップル社だけが話に乗ってきて、同氏は2001年2月に外部契約者として、そして同年4月にiPodプロジェクトの上級責任者としてアップル社に加わったのだそうです。他の成功物語同様に、ベンチャーのビジネスモデルの評価がいかに難しいか、実力と共に幸運な出会いがいかに必要であるかを改めて痛感させられます。そして、ファデル氏率いる開発チームは、ハードウエアはポータルプレーヤー社に開発を依頼、ソフトウエアはピクソ社のソフトをライセンスで取得し、僅か6ヶ月で開発を仕上げたそうです。その間、米国のポータルプレーヤー社のエンジニア200人と並行して、インドでもエンジニア80名が総力を挙げて取り組んだとのことで、典型的なシリコンバレースタイルだったことを思わせます。完成間際には、電源を切ってもバッテリーを消費し続け3時間しか稼動できないという重大な技術問題に直面し、ぎりぎりのところで解決策を見つけ世に出せたというエピソードも残っています。そして開発後も、一時期スチーブ・ジョブスCEOが重い病気で入院していたにも関わらず、一貫してiPodを推し改善点の指示を出し続けたという同氏の並外れた情熱も、成功に導いた最大の要因の1つであることは論を待ちません。

 既に150万曲以上を配信し欧州でも大ブレイク中のiTunesが、ついに日本にも上陸します。先日、アップル社が日本国内にアイチューンズ(株)を設立、エイベックスが楽曲提供を行うとの発表がありました。楽曲、配信時期の詳細は交渉中で、他のレーベルも具体的な動きを公表していませんが、間もなく日本にも音楽革命が起こるかも知れません。最近は、CD購入層が二十代から三十、四十代にシフトしつつあり、その層を狙って懐かしい復刻版が続々と市場に出荷されています。私達の世代はレコードからCDの過渡期であり、思い出の楽曲の多くはCD発売されていませんから、今は最新のカラオケボックスでやっとそのメロディに巡り合う程度の状況です。また、当時は今のようにレンタル店も普及しておらずお気に入りのアーティストのアルバムを全て購入して聴くのは大変でしたから、時を超えて今初めて耳にできる当時の楽曲も山積しています。iPodはアルバム100枚分は軽く入る容量ですから、各レーベルが踏み切れば次々と懐かしの楽曲をダウンロードしてタイムスリップ感覚を味わえるようになると思うとわくわくします。ただ、記念すべき5億曲目(Mississippi Girl)をダウンロードした米国人女性にはiPod10台、iTunes1万曲分のギフト券等の特賞が贈られたと大々的に報道されていますから、6億曲目のダウンロードに御自身が当たった時、その曲が「キカイダー」の主題歌だったりしたら、世界中に知れ渡ることになりますね…。素晴らしいことです。

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