BaySpo 732号(2005/08/12)掲載
米国半導体製造業、最先端工場を国内に
〜グローバル時代の国内投資を考える〜
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 村松 洋介
村松 洋介(むらまつ ようすけ)

1964年生まれ、神奈川県出身。1988年国税庁入庁。旧大蔵省国際金融局、高松国税局、旧大蔵省理財局、福岡国税局等に在任し、2003年8月からJETROサンフランシスコに勤務。


半導体製造最大手のインテルは、7月25日、アリゾナ州に300ミリウエハー対応のファブ(半導体の前工程工場)で、45ナノメートルのプロセス技術を用いた最先端工場を新設すると発表しました。今回の決定は、米国の半導体企業がグローバル時代にあっても、国内には最先端の製品を扱うウエハー工場を残そうとしている1つの例証と言えそうです。
【2007年下半期から製造開始】
 新工場はアリゾナ州チャンドラーにあるインテルの製造拠点に建設されます。「ファブ32」と名付けられた新工場では、45ナノ(ナノは10億分の1)メートルのプロセス技術を用いて、2007年下半期から最先端のマイクロプロセッサーの製造を開始します。工費は30億ドルで直ちに着工されます。

 ポール・オッテリーニ(Paul Otellini)CEOは、「今回の投資によって、製造ネットワークを強化し、将来の成長に備えるとともに、供給面でも一層柔軟な対応を可能にする」と述べました。さらに「製造部門は事業の土台として重要であり、それによって顧客に最先端の製品を大量に供給することが可能になる」と強調しました。

その上で「今回の製造部門への投資は、これまでにない範囲と規模で、これによって半導体業界でのリーダーシップを維持し、さらなる技術革新を推進していく」とあらためて決意を表明しました。なお、今回の工場新設によって、アリゾナ拠点では今後数年間で1,000人の新規雇用を見込んでいます。

【グローバル時代の国内投資】
 それでは、多くの米国企業が海外に製造拠点を設ける中、なぜインテルは米国内に工場を新設するのでしょうか。同社は、この点について「アリゾナでの工場新設を決定した要因は、少なくとも2つあり、それは優秀な労働力と減税措置である」(技術・製造グループのボブ・ベーカー総支配人)と説明しています(7月26日「サンフランシスコ・クロニクル」紙)。アリゾナ州は新たに租税による投資インセンティブ制度を導入しており、同制度の下では、少なくとも10億ドルの資本投資を行った企業が減免の対象になります。「USAトゥデイ」紙(7月26日)は、訓練された労働力と減税措置のほか、知的財産保護、監督の容易性を要因として挙げています。例えば、知的財産保護については、一般的にハイテク企業が国外で知的財産を保護するのは国内よりも難しい。また、監督の容易性については、工場を近接した場所に設置することによって本社が監督しやすくなるというものです。

【最先端工場は引き続き米国内に】
 ここで注意を要するのは、インテルが新設する工場が300ミリウエハー対応で、しかも45ナノメートルのプロセス技術を用いた最先端工場であるという点です。現在、半導体製造業では、回路線幅90ナノメートルのプロセス技術で量産が行われており、次の65ナノメートル世代を見据えている段階にあります。インテルでは、2005年末までに、アリゾナ、オレゴンの工場で65ナノメートルのプロセス技術を使って量産を開始する予定です。今回発表された45ナノメートル世代は、このさらに先の技術水準に位置します。したがって、このような最先端の微細加工技術が伴った工場が、米国を離れた海外に展開することは、技術やノウハウ、知的財産流出の懸念から考えにくいと思われます。今回の米国内での工場新設は、かかる文脈で捉えるべきと考えます。もっとも、これは技術水準が高度な前工程(ウエハー製造)についての問題であって、後工程(組立・試験工程など)については中国などへの移転が進み生産拠点のすみ分けが行われています。

 最近、日本では製造拠点の国内回帰現象が見られます。その理由としては、技術の流出、コピー・模倣商品の横行を食い止めるため、重要な技術のノウハウの「ブラックボックス化」を図るという観点などが指摘されています。しかし、米国企業においては、従来から最先端工場は米国内にとどまる傾向にありました。今回のインテルの決定もその路線を踏襲したものと見ることが適当でしょう。この点については日本企業でも、グローバルな分業戦略を考えるにあたって参考になるように思われます。

有澤保険事務所

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