去る十月八日、カリフォルニア州モハビ砂漠で、米国防省DARPA主催の無人ロボット自動車レース「DARPA Grand Challenge」の第二回大会が開催され、スタンフォード大学のスタッフや学生によるスタンフォード・レーシングチームの「スタンレー」(車名)が堂々の優勝を果たし、実に二百万ドルという巨額の優勝賞金を手にしました。
この無人ロボット自動車レースは、リモートコントロールを一切使用しない完全に自立走行の自動車が、砂漠の中の様々な障害を回避しながらゴールを目指すルール。GSPは当然のこと、レーザーやカメラ、レーダーシステムを搭載し、車輪の回転数やハンドルの動作履歴等の内部情報を搭載コンピュータで分析して自立走行する超ハイテク自動車ロボットの競争です。一方のコースも、道路だけでなく砂漠、川や岩場、更にはGPSが使えないトンネルまであるという厳しい条件が勢揃いの132マイル(約212キロ)コースで、十時間以内に完走したロボット自動車の中で最も短時間に駆け抜けたものが優勝と決められ、優勝したスタンレーは六時間五十三分五十八秒、平均時速約三十一キロでの走行でした。第二位、第三位が共にカーネギー・メロン大学、第4位がグレイで、一位と二位の差は僅か十一分という熾烈な競争でしたが、シリコンバレー代表とも言えるスタンフォード大学チームが栄冠を勝ち取り、ロボット無人自動車レースの世界記録を樹立し歴史を作った訳です。
このレースは、昨年三月に第一回が開催され、百件を超える申し込みから選ばれた二十五チームが参加したものの全てのチームがレース途中でリタイア。優勝賞金百万ドルは第二回に持ち越しとなり、今年は約二百組の応募から厳選された四十三チームの中から予選走行で選抜された二十組が出場しました。出場チームの層自体は厚く、企業や大学はもとより、電気技術者、発明家、更には高校生チームも1組参加したそうです。DARPAは完走車が出るまではイベントを続けると表明していましたが、僅かこの1年間で技術が驚異的な向上を遂げ、早くも今年の完走は一挙に五チームも出揃いました。
何しろ優勝賞金が二億円を超えるわけですから、単なる自動車マニアの趣味というレベルでは全くありません。中には数億円を注ぎ込んでロボット自動車を開発したチームもいます。そこまで資金投下するには、チームの情熱や優勝、名声を得たいという純粋な動機もさることながら、大会スポンサーが米国防省DARPAであるというのも重要な背景となります。というのも、米議会は、このレースは将来、戦場で兵士を危険な目にあわせることなく物資輸送を行ったり戦車を敵地で使用したりするための自走ロボット自動車技術の開発戦略の一環で企画されており、同大会で技術をアピールすれば将来の国防関連のビッグビジネスにつながる可能性もあるからです。米国議会は、2015年までに軍用自動車の三割をロボット自動車に代替することを命じており、早急な技術の確立が求められていますが、今回の結果を踏まえてDARPAは本レースを今年で打ち切ると表明しているところを見ると、恐らく予想以上に早い好結果が出て将来の技術基盤に十二分な感触を得たということでしょう。
ロボットといえば、日本は「ロボット王国」と言われます。確かに、製造業分野では雇用者1万人当たりの産業用ロボット保有台数は日本が他国を圧倒して第一位。大和総研アナリストの田井氏の分析によれば、ファナックが開発した「ロボットセル生産システム」をはじめとする長時間無人生産技術(第三世代技術)を導入すれば生産拠点をアジアに移転する以上に低コスト化が実現でき、これが最近の日本国内への製造拠点回帰を促す原動力となっているほどです。また、ここ数年のホンダの「ASIMO」やソニーの「AIBO」といった話題性から見ても、ロボット産業はまさに日本の独壇場のような印象を持ちます。ところが、国際競争力比較では必ずしもそうとは限りません。米国が強い軍事、宇宙や医療といった分野のロボット技術は、必然的に米国が先行しています。そして今、米国でロボット市場に期待が高まりつつあることは,十月初旬にサンノゼで開催されたRoboNexusでの米国企業のロボット産業参入への盛り上がりを見ても明らかです。実用ロボットは必ずしも二本足である必要はなく、ロボットビジネスを制するのは決して日本とは限らないのです。
ところで、米国内でロボットといえばMITやiRobot社のあるマサチューセッツ州が主役と見られがちですが、今般のロボット自動車レースにも見られるように、いよいよシリコンバレーを擁する西海岸もロボットへの取り組みが本格化してきました。そうなると、二十一世紀のロボットはまさに精密機械とコンピュータの一体化ですから、情報家電同様、日本とシリコンバレーが手を握れば最強のコンビとなるはずです。ロボット分野のこれからの日米ビジネス提携に大いに期待し、ジェトロもその橋渡しの一助となればと思い色々と策を考えているところです。是非、アドバイスやご要望をお声掛け下さい。
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