シュワルツェネッガー知事は、昨年に引き続き今年も、州議会で可決された「ジョブ・キラー」法案に拒否権を行使しましたが、環境や子どもの健康関連の法案には一定の理解を示しました。「サクラメント・ビー」紙の記者は、知事の姿勢を「財政的には保守で、ビジネス優先、環境にはリベラル、社会的問題には中道」と分析しています。
【961本のうち232法案に拒否権行使】
今年シュワルツェネッガー知事は議会を通過した961本の法案のうち729本に署名し、232本に拒否権を行使しました。拒否権行使の割合は24%で、昨年の25%とほぼ同様の水準でした。
まず、ビジネス関連の法案について見てみましょう。カリフォルニア商工会議所は、昨年同様、カリフォルニア経済に悪影響を与える恐れのある法案を「ジョブ・キラー」法案として特定し、立法化されないようロビー活動を展開してきました。知事は州議会を通過した8法案のうち7法案に拒否権を行使しました。拒否権を行使した7本の法案には、2006年7月に1時間当たりの最低賃金を現在の6ドル75セントから7ドル25セントに、2007年7月には7ドル75セントに引き上げ、それ以降は物価スライド制とする法案(AB48)、「ロックアウト」によって就労していない労働者にも失業給付を認める法案(AB391)、最低賃金や超過勤務手当の支払い不履行に対して労働者がクラスアクション(集団訴訟)をより容易に提起できるようにする法案(SB174)、などが含まれています。
【ビジネス環境の改善は知事の最優先事項】
カリフォルニア商工会議所は、こうしたジョブ・キラー法案への拒否権行使について、「企業の競争力に不利益を与え、訴訟やヘルスケア費用の増加をもたらす恐れのある追加的な労働立法を阻止した」と評価しています。また、「サンノゼ・マーキュリー」紙(10月11日)は社説で「ビジネス環境の改善については、常にシュワルツェネッガー知事の最優先事項になっている」という認識を示しました。
【迷惑ファックスの規制法案には署名】
ジョブ・キラー法案のうち知事が署名した唯一の法案は、求められていない広告宣伝のファックスをカリフォルニア州から送信するのを禁じるとともに、迷惑ファックスを受信した人々に1件当たり少なくとも500ドルの損害賠償訴訟の提起を認める法案(SB833)です。この法案署名について、上記「サンノゼ・マーキュリー」紙(10月11日)の社説は、「知事は、いくらビジネスであっても許容され得ない領域があることを理解している」と評価しています。一方で、カリフォルニア商工会議所は、「特に中小企業に対する訴訟の増加をもたらすことを懸念している」と述べました。
【環境関連法案には一定の配慮も】
次に、環境関連の法案を見てみましょう。知事は「環境を保護し、自然の美しさを将来にわたって維持していくことは、私の最優先事項」と力説しています。こうしたことから、昨年同様、環境関連法案には一定の配慮が伺えます。署名した法案には、化粧品製造業者に対して製品中に含まれる有害物質の州への報告を義務付ける法案(SB484)、州に対して高速道路の建設には廃棄タイヤのゴムを含むアスファルトを使用するよう義務付ける法案(AB338)、インターネットを通じて実際の狩猟を行うことを禁止する法案(SB1028)、などが含まれます。
一方で、拒否権を行使した法案としては、「バイオモニタリング」法案と呼ばれ、州民の有志から血液、母乳、尿などを採取し有害物質のレベルを測定する法案(SB600)、 沿岸環境プログラムの財源にするため20の沿岸地域およびベイエリアの郡(カウンティ)に自動車登録料を6ドル引き上げることを認める法案(SB658)、農場経営者に対して使用する地下水の量を州に報告することを義務付ける法案(SB820)、などがあります。「サンノゼ・マーキュリー」紙(10月9日)は、環境保護団体であるシエラクラブ・カリフォルニアのスポークスマンが、「知事の成績はひどくはないけれど、すばらしくもない。もっと成果を挙げられたはずだ」と語ったことを伝えています。
【子どもの健康を保護する法案にも署名】
上記以外で知事が署名をした主な法案を見ると、子どもの健康を保護し健全な生育を促す法案への署名が目立ちます。例えば、18歳未満の子どもに暴力シーンを含むビデオゲームの販売を禁止するとともに、これに違反して販売した者には1,000ドルの罰金を課す法案(AB1179)、大学やオリンピックのスポーツで禁じられている「栄養補助食品」を高校の運動選手が使用することを禁止する法案(SB37)、高校での炭酸飲料の販売を禁止する法案(SB965)、カリフォルニアで販売するたばこはすべて、喫煙者が数分間吸わないでそのままにしておくと自動的に火が消える仕組みのたばことすることを義務付ける法案(AB178)、などがあります。
拒否権を行使したその他の主な法案は、運転に使用できるだけで公の目的での身元証明(ID)(例えば航空機の搭乗手続きなど)には使用できない運転免許証を別個に創設し、これを不法移民者に付与することを認める法案(SB60)、同性婚を合法化する法案(AB849)、などがあります。
【財政保守でビジネス優先、環境にはリベラル】
それでは、知事の法案への署名、拒否権行使の態様は全体としてどのように位置付けられるでしょうか。上記「サンノゼ・マーキュリー」紙(10月11日)の社説は、知事は保守とリベラルの間の中道路線を歩んでいると見ています。また、「サクラメント・ビー」紙のダニエル・ウイントラウブ記者は同紙の論考(10月11日)の中で、「財政的には保守で、プロビジネスであるとともに、環境にはリベラル、社会的問題には中道」と分析しています。
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