BaySpo 746号(2005/11/18)掲載
日米企業のアライアンス促進を議論
〜ジェトロ・ビジネス・ストラテジー・フォーラム2005〜

ジェトロ・サンフランシスコ・センター 田中 一史

田中 一史 (たなか かずし)
東京生まれ。1990年ジェトロ入会。海外調査部アジア大洋州課、マニラ・センター調査部、「世界は今」(日経CNBC等)の番組ディレクターなどを経て、2002年3月、サンフランシスコ・センターに広域産業調査員として着任。 星野 岳穂 (ほしの たけお)

  ジェトロは11月4日、経済産業省、米国務省と共催で、米国はハイテク産業のメッカであるシリコンバレーにて、最先端技術分野における日米ハイテク企業のアライアンスおよび日本への研究開発(R&D)投資の促進を目的とした国際フォーラムを開催した。

 この催しは、01年6月、小泉首相とブッシュ大統領との間で合意された「成長のための日米経済パートナーシップ」に基づき設置された「日米投資イニシアティブ」の公開プログラムの一環であり、今年はニューヨークとシリコンバレーで開催された。とりわけ、シリコンバレーでは、米ハイテク企業の日本への最先端技術分野へのR&D投資の増大や、日本の大手情報家電メーカー等が次世代技術の開発に向けて、諸外国企業との戦略的技術アライアンスを推進していることなどを背景に、「最先端技術分野における日米企業間の新しいビジネス・モデル」をテーマに議論が行われた。

【米国務省、M&Aの商法改正に期待】

 まず、冒頭の主催者挨拶で、米国務省のローレンス・グリーンウッド次官補代理は、日本経済の現状に触れ、「日本経済は長い間停滞していたが、現在はその終焉を迎え、今が投資の絶好の時期である」との見解を示し、「特にM&Aに係る商法改正はハイテク企業にも朗報であり、日米間で将来価値を分配する上で大変重要である」との考えを示した。

 続いて、米経済誌、フォーブスのシリコンバレー支局長である、クエンティン・ハーディー氏をモデレーターとする、パネルディスカッションが行われた。パネルには、最近、日本にR&D投資を行った通信機器大手のシスコ・システムズのトニー・ベイツ上級副社長、AMDのスコット・スワンストローム・ダイレクター、ベンチャー・キャピタリストのスティーブ・ドメニック氏、セキュリティー・ソフトのプルーフポイントのサンドラ・ヴォーン上級副社長、そして、日本からは東芝・セミコンダクター社の提携・戦略担当部長の安田洋史氏が参加した。

【日本は最先端技術分野のR&Dセンター】

 パネルは、まず各社の日本での事業展開についての披露があった。とりわけ注目が集まったのは、日本の投資環境と米国ハイテク企業のR&D投資についてであった。その中で、最近、日本へのR&D投資を行ったAMDのスワンストローム氏は、同社の日本のR&Dセンターの位置付けについての言及があった。それによると、同社では、中国など他の国・地域にも販売・マーケティング、サポート拠点があるものの、日本はそれら拠点と明らかに一線を画しており、日本が先端を走っているモバイル分野の同社における将来の技術開発に向けた重要なR&D拠点であり、文字どおり米国本社の核となる技術のアーキテクチャーと連携したR&Dを行っていることを披露した。特にチップの省電力化に焦点を絞ったR&Dを行っているとした。そのため、日本にはR&Dのキーとなる人材を配置し、日本市場のことを学ばせ、そして、学んだことが社内の製造工場の工程にも役立つよう指示している。一方、シスコ・システムズのベイツ氏は、同社の日本へのR&D投資は、基本的にAMDと同じアプローチだとして、日本市場だけを狙ったものではなく、世界市場向けのR&Dを目指しており、日本の顧客からのフィードバックやナレッジ・アドバイスに期待を寄せているとした。また、日本市場については、今や一般家庭でも1ギガの通信回線を1ヵ月約50ドルで利用できるものの、その普及率は未だに低く、今後の市場の成長性に期待を寄せていることを述べた。

【ベンチャーより大企業がアライアンス先】

 次いで、話題はシリコンバレーらしく日本のベンチャー企業についても話が飛んだ。その中で、ベンチャー・キャピタリストのドメニック氏は、日本のベンチャー環境が一朝一夕にシリコンバレーのようになるのは難しく、文化の違いもあり、時間がかかるのでないかとの考えを示した。また、同氏は、米国のベンチャー企業の日本市場へのアプローチは、日本国内に販路を有する大企業とのアライアンスが効果的であると述べた。

 一方、シスコ・システムズのベイツ氏は、日本では大企業が主なアライアンス・パートナーとなっており、米国で行っているようなベンチャー企業発の先端技術の取り込みに向けたM&Aは行っていないことを述べた。また、東芝の安田部長も、同社は企業の国籍に関係なくグローバルな観点からアライアンス先を発掘しているものの、同社のベンチャー企業の主要なアライアンス先は米国、欧州、中国、台湾発のベンチャー企業で、残念ながら日本のベンチャー企業とのアライアンスは少ないといった実情を述べた。

 このようにハイテクの聖地であるシリコンバレーではまだまだ日本のベンチャー企業とのアライアンスに向けた機運は低いことが明らかになった。

【日本企業の意思決定は本当に遅いのか】

 パネルでは、日本企業とのアライアンスは日本企業側の意思決定の遅延により時間がかかるのではないかといったステレオタイプ的な議論もあった。それに対して、プルーフポイントのヴォーン氏は、最近の自らの経験から、「当初、日本企業とのアライアンスは1年か1年半以上掛かるのではないか見ていたが、実際に日本企業にアプローチしたら、極めて短期間に合弁会社の設立や投資の申し出まであった。さらに日本での事業活動に向けたリソースの発掘やローカライゼーションについても支援してくれた。彼らは、市場の大きな需要が何かをきちっと見極めている」とコメントし、日本企業の意思決定が遅いというのは認識不足であるとの考えを示した。

 また、AMDのスワンストローム氏は、日本企業とは長期に亘った信頼関係を築くことが重要であるとし、最初は小さなプロジェクトから初めるのが良いのではとの考えを示した。

 最後に、東芝の安田部長は、今や半導体の世界では1社で全て行うことはあり得ず、グローバル市場に向けて双方の強みや弱みをお互い補完しながらアライアンスを組むことが重要であると述べた。そのため、(日本企業の国籍問題はグローバル・ビジネスの世界では関係ないと一蹴した。

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