最近のシリコンバレーの大手企業は、先端技術の取り込みには急成長中のベンチャーを丸ごと取り込む買収策が主流となっています。そうした中で、今や買収に関心を示さず自らが技術開発戦略をじっくり「楽しんで」成功しているのはグーグルくらいでないか、と言われています。検索はもとより、二ギガバイト以上もある「Gメール」、画像管理ソフトのPicasa、そしてその国際問題にもなりかけた衛星写真のグーグル・マップ、グーグル・アースと続いています。しかも驚くのは、これらの最近グーグルの提供する先端技術のサービスはみな無料というところです。もちろんグーグルにとっては「無料」でなく広告収入を得ている立派なビジネスなのですが、有用なソフトは有料で購入することに慣れている私たちにとっては全くもって嬉しい驚きです。
そのグーグルが、本社を置くお膝元マウンテンビューに対して無料のワイアレス接続を市内全域、市民7万人に提供する計画を提出し、これが市議会で承認されました。十一月十五日に発表された同市との合意では、市所有の街灯に無線アクセスポイントを設置することが承認され、契約は五年間、設置費用、ユーティリティコストもグーグルが負担し同市は年間$12,600の財政収入を得るうえ、しかもグーグルだけの独占契約ではなく第三者も参入可能とのことです。同社は既に本社周辺でこのサービスの実験的な提供を始めており、市内全域への導入は来年6月までにスタート。これによりWi‐Fiの普及が一気に加速することでしょう。実際の実効速度がどのレベルになるのかはちょっと気になるところですが。
市内全域に無料のWi‐Fiサービスを提供すると言えば、東ではフィラデルフィア、西ではサンフランシスコが先行して計画を発表しています。サンフランシスコのTechConnect戦略に対しては、先月一日、グーグルがニューサム市長の要請に応じて百ページもの提案書を提出し話題を呼びました。提案によれば、同市内の誰もが最大三百Kbpsのデータ転送速度のアクセスを無料で利用でき、緊急時の連絡を含めビル内では九十%、市街地では九十五%のアクセス率を目標に設定しています。但し、同市のこの計画は域内八十万人を対象にする大規模なもので、他の提案会社もアースリンクやモトローラ、SFlanを含め十二社以上にのぼり、企業選定やサービス開始の時期はこれからですから、タイミングによってはマウンテンビューが先行するかも知れません。グーグル自体は、この無料サービスをベイエリア全域に拡大する意向は無いとしているようですが、シリコンバレーの称号を冠する他市も黙ってみているわけにいきません。既に先月末には、サンノゼ市も公園、図書館などを始め市の中心街に無料のワイアレス接続を構築する計画を発表しています。ベイエリア全体が世界初のワイアレス・バレーとなる日も近いのでしょう。
創設から僅か7年のグーグルですが、その勢いは衰えることを知りません。九月には四十一億ドルの新規資金調達を発表、これにより資金総額は七十億ドルに達し、次々に新事業や提携が発表されています。サーチエンジンとしてはヤフーの二倍、MSNの四倍、アースリンクの実に五十倍以上の差を付けて圧倒的な首位を不動のものとし、最近は検索大手企業という枠を超えた巨大ITサービス企業として成長を続けています。世界中の情報をデータベース化する、と言い切る自信も頷けます。そして、何と言っても、先述したように従来はユーザーが支払っていたソフト代金を広告収入に置き換え無料で提供するという新モデルを確立し、今後はウエブサイトや地図情報に留まらず業務用ソフトにも射程に入れれば、いよいよソフト販売収入で世界を制しているマイクロソフト独走時代にピリオドを打とうとしていることが、最大のイノベーションとなるでしょう。
この新たなビジネスモデルと無料WI‐Fiインフラ整備が、シリコンバレーを再び全速発進させ世界を揺るがす起爆剤となる予感がします。日本もグーグルとの関係をもっと深めていくことが益々大切になるでしょう。
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