BaySpo 750号(2005/12/16)掲載
シスコシステムズ、ケーブルテレビ機器大手を買収
〜デジタルホーム市場に進出へ〜

ジェトロ・サンフランシスコ・センター 村松 洋介

村松 洋介 (むらまつ ようすけ)

1964年生まれ、神奈川県出身。
1988年国税庁入庁。旧大蔵省国際金融局、高松国税局、旧大蔵省理財局、福岡国税局等に在任し、2003年8月からJETROサンフランシスコに勤務。
 ネットワーク機器大手のシスコシステムズは11月18日、ケーブルテレビ機器大手のサイエンティフィック・アトランタを約69億ドルで買収すると発表しました。今回の買収合意は、シスコの消費者市場に向けた大きな動きとして捉えられています。背景には各家庭でのIP(Internet Protocol)ネットワーク化という構想があると見られます。今後シスコは、デジタルホーム市場で消費者家電メーカーを含む多くのライバルと競争していくことになりそうです。

【映像配信は重要な戦略的アプリケーション】

 サイエンティフィック・アトランタは、ケーブルTVの受信などに利用される「セットトップ・ボックス(set-top boxes)」などを手がける大手企業です。買収はシスコの2006会計年度第3四半期に完了する予定です。

 シスコのジョン・チェンバーズ(John Chambers)CEOは、「映像配信は、重要な戦略的アプリケーションとして浮上してきており、両社の合併は、大規模な映像システムやネットワークを提供する上で、比類のない経験と技術革新をもたらすことになる。シスコの国際的なプレゼンスとIP分野のリーダーシップによって戦略的なシナジー効果が生まれる」と述べました。

 さらに、同CEOは、「消費者はより洗練された情報サービスや娯楽サービスを家庭で得られるよう望んでおり、アプリケーション、デバイス、ネットワークの密接な統合が必要不可欠になる」と指摘し、「シスコ傘下のリンクシス(Linksys)とサイエンティフィック・アトランタの強みを結集することによって、シスコのリーダーシップをネットワーク化されたデジタルホーム全体に拡大していくことが可能になる」と買収のメリットを強調しました。

【音声、映像、インターネット、無線を包括】

 「ウォールストリート・ジャーナル」紙(11月19日)は、「今回の買収によって、シスコはケーブルTV会社が番組配信に使うサーバーシステムのほか、広く使用されている一連のケーブルTV用のセットトップ・ボックスを手に入れることになった」とした上で、「これは、音声、映像、インターネット、無線を包括した『クアドループル(4重)プレー』サービスを開発している業者にシスコが製品を販売する手助けとなる」と述べています。

【消費者市場に向けた大きな動き】

 今回の買収はこのようなサービスプロバイダーを対象とした動きにとどまらず、消費者市場に向けた大きな動きとして捉えられていることが特徴です。シスコはこれまでも消費者市場に事業を広げることを目指してきましたが、今回の買収はこうした事業戦略の一環であると見られます。また、その背後には各家庭でのIPネットワーク化という構想があるようです。

 「フィナンシャル・タイムズ」紙(11月21日)は、今回の買収によって、シスコは、「デジタルホーム市場での競争に備えて有利な足かがりをつかんだ」というアナリストの見方を紹介しています。さらに「ウォールストリート・ジャーナル」紙は、「シスコは主としてネットワーク機器を企業、電話事業者に販売している」が、それだけではなく、「ケーブルTV会社がインターネット接続を提供するために使用するハードウエアも販売していること、2003年にリンクシスを買収して以降は無線接続機器も販売するようになっていること」にも言及しています。そして、「シスコのこうした技術と、サイエンティフィック・アトランタの専門性が1つになることにより、シスコはインターネットで使われるフォーマットへのビデオ映像の変換を利用できる」とし、「こうした進化は、ビデオのみのネットワークを迂回し、IPTVと呼ばれるインターネットを通じた番組配信を可能にするほか、今日のケーブルTVシステムをより効率的なものに変えることにもなる」と述べています。

【セットトップ・ボックスは家庭中の音楽、映像、デジタルデータの拠点に】

 「サンノゼ・マーキュリー」紙(11月19日)は、「将来的には、シスコは自らの無線技術を統合し、セットトップ・ボックスを家庭中の音楽、映像、デジタルデータの拠点にするだろう。さらにシスコはインターネットを通じたテレビ動画配信で大きな役割を演じることになるだろう」と予測しています。

 実際、シスコのチェンバーズCEOは、「IPを基礎としたネットワーク」という表現をよく用いています。ここにはIP技術を各家庭に展開していこうとする戦略が読み取れそうです。背景には、現実に家庭でのブロードバンド普及が進み、IP経由で映像配信が可能になってきているという事情があると見られます。

【消費者家電メーカーを含む多くのライバルと競争へ】

 シスコの今後の課題は何でしょうか。「フィナンシャル・タイムズ」紙は、他の企業との競争を挙げています。同紙は、「マイクロソフト、モトローラのほか、広範囲の消費者家電メーカーとの競争を強いられることになる」と予想しています。

 また、ジョージア州に本社に置くサイエンティフック・アトランタとの事業統合に伴う課題も指摘されています。シスコは、これまでシリコンバレーの本社に近接した小規模の企業を対象として買収を行ってきたいきさつがあり、サイエンティフック・アトランタの距離的な遠さと規模の大きさが、統合の障害になり得るとの見方も出ています。

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