シリコンバレーでは、ブッシュ大統領が1月31日の一般教書演説の中で提案した米国の競争力強化策に注目が集まっています。「米国競争力計画」は、シリコンバレーのハイテク企業が従来から要望してきた内容に基本的に沿ったもので、物理学における基礎研究の予算倍増、R&D税制の恒久化、数学・科学教育の拡充などを含んでいます。
【基礎研究の予算倍増、R&D税制の恒久化、数学・科学教育の拡充を提案】
ブッシュ大統領は一般教書演説で「米国は才能と創造性の点で世界をリードしていかなければならない」と述べ、「経済を通じたイノベーションを促進し、子どもたちに数学と科学の基礎をしっかりと身につけてもらうために、『米国競争力計画(an American Competitiveness Initiative)』を提案したい」と語りました。
同大統領の提案は3つあります。1つ目は、「今後10年間、物理学で最も重要な基礎研究プログラムに対して、連邦予算を倍増する」ことです。大統領は「こうした予算は、ナノテクノロジー、代替可能なエネルギー資源のような前途有望な分野の研究に役立つ」と述べています。2つ目は、「テクノロジーの分野で、より大胆な民間の独創力を促進するために、研究開発(R&D)税額控除を恒久化する」ことです。さらに、3つ目として、「数学と科学のアドバンス・プレイスメント・コースを教えるために7万人の高等学校の先生を訓練する、3万人の数学と科学の専門家を学校に派遣し教室で講義してもらう、数学の苦手な生徒を早い段階で手助けする」ことを提案しました。
【シリコンバレーのハイテク企業は大統領の提案を評価】
シリコンバレーのハイテク企業の間では、米国の競争力強化に向けた今回のブッシュ大統領の提案を評価する声が多く見られます。シリコンバレーでは、従来から、米国の競争力強化が大きな課題であるとの認識が広がっていたからです。
シリコンバレーに本拠を置くハイテク企業のロビー団体、テックネット(TechNet)のレズリー・ウェスティン(Lezlee Westine)CEOは「イノベーションと競争力の促進を全米の政策課題のトップに据えたブッシュ大統領を賞賛する」と語り、「次代の革新者を育てるために、数学や科学の教育への投資を優先課題においたことが重要」と指摘しています。
シスコシステムズのジョン・チェンバーズ(John Chambers)CEOは、「米国がグローバルなイノベーションのリーダーであり続けることを後押しするのが最も重要な経済政策。これを実現するためには、数学や科学の教育、R&Dなどを支援する積極的な指針が必要で、ブッシュ大統領のリーダーシップに感謝したい」と語りました。
民主党からも評価する声が挙がっています。サンフランシスコ選出の連邦下院議員ナンシー・ペロシ(Nancy Pelosi)院内総務(民主党)は、「米国がグローバル経済の中で競争的である必要がある」ことについては、「民主党としても同意する」と語りました。「民主党は昨年、『イノベーション・アジェンダ』を提示しており、米国が第1位の座を維持できるように超党派での取り組みを望んでいる」と強調しました。
【米国競争力計画、シリコンバレー、ベイエリアに恩恵も】
それでは、シリコンバレー、ベイエリアの新聞論調を確認しておきましょう。「サンノゼ・マーキュリー」紙(2月2日)の社説は、「ブッシュ大統領がイノベーションと競争力を政策課題の上位に置くという決定をしたのは、シリコンバレーのリーダーたちのおかげ」とハイテク企業の経営者の活動を賞賛しました。その理由は、「シリコンバレーの著名なCEOらが何年間もワシントンD.Cを訪れ、ハイテク産業では誰の目にも明らかな最近の傾向について警告を発してきた」からだと述べ、その警告とは、「科学と技術における米国のリーダーシップが挑戦を受けており、もし競争とイノベーションの能力を強化しなければ米国の生活水準や国家の安全が危機にさらされることになる」というものだと伝えています。そして、「もしブッシュ大統領が議会の共和党、民主党両党と協力して、米国競争力計画の実現に向けて取り組むことができれば、全国民が利益を受けることになる」と期待を表明しています。
「サンフランシスコ・クロニクル」紙(2月6日)の社説は「米国競争力計画は、ベイエリアにとって特に有利に働く」と観測しています。なぜなら、「カリフォルニア大学バークレー校やスタンフォード大学などの主要な研究機関がベイエリアにある」からだ説明しています。また、「ベイエリアは民間企業においてもハイテクとバイオテクの中心である」からだとも述べています。
今回の競争力強化策の提案は、同様の課題を抱える日本社会や日本企業にとっても参考になるように思われます。
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