BaySpo 823号(2006/06/09)掲載
力強さを示すシリコンバレーの投資動向
〜メディア・エンタテイメントと医療機器分野に熱い期待〜

ジェトロ・サンフランシスコ・センター 星野 岳穂

星野 岳穂(ほしの たけお)
 
1962年生まれ、東京都出身。1987年通商産業省(現 経済産業省)入省、電子機器課、地球環境対策室、航空機武器宇宙産業課、原子力産業課、鉄鋼課等に在任し、主として産業振興、技術開発政策を担当。2004年7月、JETROサンフランシスコに勤務。

 プライスウォーターハウスクーパーズの調査によれば、2006年第一四半期のベンチャーキャピタル(VC)の投資総額は56.3億ドル(761件)に達し、昨年同期比12%増という好調なスタートとなりました。通常、VC投資額は第4四半期が最も高く、その直後の第1四半期がやや抑え気味の数値となります。そうならなかったITバブル期前後(99年第1四半期から2002年第4四半期頃まで)を除けば、本年の第1四半期の投資総額は過去最高水準で、バブル開始直前の水準に並んだことになります。やはり気になるのが地元シリコンバレーですが、当地には約21億ドルの投資があり、全米の36%を占めています。続くニューイングランドが8.7億ドルですから、引き続き「桁違い」の強さを誇っていることになり、一安心。
 具体的な産業別分野を見てみますと、全米全体で、ソフトウエア、バイオ、医療機器、半導体、テレコミ、メディア・エンタテイメントの各分野が「6強」として君臨しています。最も投資総額が大きいのは相変わらずソフトウエア分野ですが、金額的には近年は1.2億ドル前後で安定して推移しています。バイオは、2004年にぐっと額が増えたためか05年がやや抑え気味となり、06年も派手なスタートにはなっていませんが、バイオは1件当たりの投資金額がかなり大きいため、四半期単位だと振れも大きいですから、もう少し中期的な視点で評価する必要があります。いずれにせよ、バイオは既に大きなポジションを占めており、引き続き重要な投資先であることに変化はありません。
 他方、顕著な拡大トレンドが見られるのは、医療機器分野とメディア・エンタテイメント分野です。医療機器は、ITバブル期も含め、第1四半期は必ず直前の第4四半期より投資額が減少していましたが、何と06年第1四半期は初めて前期を上回り、しかも4期連続上昇中です。創薬中心のバイオ分野がやや伸び悩みといっても、広い意味での医療関連技術ビジネス投資の勢いは止まっていないと言えるでしょう。医療機器分野への投資は、全米ベースでも前年同期比62%の伸びという大変な数字ですが、シリコンバレーでは、実に前年同期比250%という伸びです。投資対象企業の分野は循環器系から手術用器具まで様々で、特定の分野というより総花的に伸びている印象があります。
 これに対してメディア・エンタテイメント分野は、全米ベースでは3.9億ドル、前年同期比44%増とこれまた立派な数値ではありますが、これがシリコンバレーでは前年同期が0.5億ドル、今期が1.8億ドルで、実に3.8倍の急成長です。メディア・エンタテイメント分野といえばむしろロサンゼルス地域が強い印象がありますが、確かにVC投資額自体はシリコンバレーの方がもともと大きいものの、その差は04年まではそれほど大きくありませんでした。それが、05年には約2倍の差に開く程シリコンバレーでの同分野への投資が伸びてきたわけです。もっとも今期シリコンバレーでの投資が急増したのは、本誌815号(本年4月14日)でJETRO田中所員から皆様に紹介したスリング・メディア社(世界中どこででも自宅のTVが見られる技術を開発)が、DCM、アレン、ゴールドマンサックス等蒼々たるVCからの投資を得たのが大きく影響したもので、四半期の動向だけで単純比較するわけにはいきません。しかし、メディア・エンタテイメントがIT技術と融合し、ビジネス創出の軸がシリコンバレーに移りつつあるのではという予感がします。医療機器もIT技術によって開花しているものがほとんどですから、やはり今後もハイテクビジネスの種はシリコンバレーにあり、だからこそ世界中からその種を探しに一流選手が集まり続けるのでしょう。最近のハイテクビジネスは先行者利得が莫大で、世界に普及してコスト競争が主となるフェーズでは、それに最も適した中国、インド等に拠点を移すというパターンが確立していますから、日本の企業、特に新しいハイテクビジネスにチャレンジするベンチャー等の企業は、やはり「これからもシリコンバレーの時代だ!」と言って出てこないと常に後追いとなってしまいます。
 報道によれば、ヤフー、グーグル、アドビ、イーベイ等のシリコンバレーのメガ・ネット企業が今年は3000人以上の採用を予定しているとのことで、これはネットバブルがはじける前の1999年以来の高い雇用率となります。企業側が採用したいとする人材のほとんどはPhDレベルの「エリートエンジニア」です。この中に、日本人は何人入れるでしょうか。先日ボストンのインキュベーションセンターを訪問したら、何とグーグルが入居しニューイングランドのハイテククラスターでも活動を本格化、とのこと。あえてインキュベーションセンターに入居したのも不思議ですが、いずれにせよ、シリコンバレーでは足りずに東海岸のエリート人材獲得にも気合いを入れたのでしょう。Web2.0の盛り上がり、ヤフーのグーグル追撃、アップルの携帯進出の噂等、シリコンバレーのハイテクビジネス競争は、バブル崩壊を完全に乗り越え、今年当たりから再び大きく加熱していくのでは、と期待しています。日本も、時流に遅れず当地に一気に食い込むチャンスです。W杯もビジネスも、日本、目指せ優勝!

有澤保険事務所

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