このたび、ベイエリアを離れ、出身元の国税庁に復帰することになりました。締めくくりとして、最近、シリコンバレーで注目される3つの変化について、考えてみたいと思います。
【シリコンバレーの雇用情勢は改善】
1つは、雇用情勢の改善です。シリコンバレーでは、ITバブル崩壊から立ち直る過程で、ハイテク企業の企業収益が好調にもかかわらず、それがなかなか雇用増に結びついてこないという現象が長く続いてきました。しかし、2005年になってようやく雇用の増加が見られるようになりました。2005年以降は、前年同月比の雇用の伸びが、概ね0.5〜1%増で推移してきています。これまでシリコンバレーで2000年時点の雇用の約4分の1が失われたことからすれば、雇用が上昇に転じていること自体が大きなニュースと言えます。ただ、今後、さらにその勢いを強めていくかどうかは不透明です。シリコンバレーでは生産ラインが他地域に移転し、本社機能やR&D機能に次第に特化することによって、企業業績の影響を受けにくい雇用構造になりつつあると考えられるからです。
【「アイデア・エコノミー」に進化するシリコンバレー】
2つめは、シリコンバレーが、「アイデア・エコノミー」に進化しているという指摘が出ていることです。「2006年シリコンバレー・インデックス」のリポートでは、「シリコンバレーは、ITバブル崩壊後の数年間で、『創造性(creativity)』のあるビジネスおよびテクノロジーのグローバルセンターとして、自らの立場を強化してきた」と強調しています。そして、「シリコンバレーの競争上の優位性は、エンジニアリング、科学およびマネジメントの専門的知識を基礎として、新しいアイデア、方法、製品デザイン、サービス、ビジネスを生み出す能力にある」と分析し、シリコンバレーが「アイデア・エコノミー」に進化しているという見方を提示しています。
ここで、従来の概念である産業経済とアイデア・エコノミーを比較してみると、産業経済が天然資源や労働、資本を素材にしていたのに対して、アイデア・エコノミーの素材はアイデアであると言います。また、組織の面では、産業経済が大企業や規模の経済を特徴としているのに対して、アイデア・エコノミーは起業家、小企業、フリーエージェント、ネットワークを特徴としているなどの相違が見られると指摘しています。確かに、アップルやグーグルなどの隆盛を見れば、このような指摘はある程度当たっているかもしれません。いずれにしても、シリコンバレーの構造変化に着目している点が興味深いところです。
【IPOが減少、M&Aが増加するシリコンバレー】
3つ目は、シリコンバレーでは、新興企業のIPO(新規株式公開)が減少する一方で、M&Aによって大企業に買収されるケースが増加していると見られることです。その理由としては、公開企業に対する監視が強化され、より一層の透明性が要請されているために新興企業がIPOの実行に躊躇していること、その一方で新しい技術の獲得を求めている大企業には、そうした技術を持つ新興企業が買収先として魅力的な存在に映っていることなどが挙げられています。実際、マイクロソフト社は昨年8社のシリコンバレーの新興企業を買収しています。ただ、こうした傾向は起業家の思考様式を変化させ、中長期的にはイノベーションの状況やシリコンバレー・モデルに何らかの影響を与える可能性も否定できないように思われます。
私は、2004年10月から今回まで、全部で16回、このコーナーを担当させていただきました。ベイスポの読者の皆様、長い間お付き合いくださって、どうもありがとうございました。
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