BaySpo 829号(2006/07/21)掲載
動画配信ビジネスの行方

ジェトロ・サンフランシスコ・センター 星野 岳穂

星野 岳穂(ほしの たけお)
 
1962年生まれ、東京都出身。1987年通商産業省(現 経済産業省)入省、電子機器課、地球環境対策室、航空機武器宇宙産業課、原子力産業課、鉄鋼課等に在任し、主として産業振興、技術開発政策を担当。2004年7月、JETROサンフランシスコに勤務。


 音楽配信ビジネスは今さらiPodの例を出すまでもなく日常のものとなり、当然次は動画配信を、という流れになります。既にグーグルビデオやiTunesをはじめ様々な動画配信サイトに接することが出来ますが、特にここ最近、大変な話題となっているのが、昨年2月にサンマテオで設立されたYouTube(ユーチューブ)というベンチャー企業です。YouTubeは、各ユーザーがアップロードした動画を全て無料で共有、閲覧できるサイトを運営している企業ですが、何が凄いと言えば、本年4月時点で世界中からアップされた4000万点の投稿映像が配信されており、しかもなお1日に4万件近い動画がアップロードされ続けていることです。動画数で比較すれば、このYouTubeが他を圧倒しています。日本では、USENのGyaoが大人気で、登録者数こそ1千万人を超えているそうですが、実際のGyaoの月間視聴者数は380万人とのことで、これに対して日本国内からのYouTube視聴者数は400万人を超え、あっという間に動画配信サイト系のトップに躍り出たわけです。企業設立から僅か1年強の企業のサイトでこの数ですから、まさに驚異的です。米国内でも800万人を超えるユーザーがいるとのこと。

 この企業がある意味で本格的なのは、シリコンバレー最強のベンチャーキャピタルの1つであるセコイアから、企業設立後わずか9か月で350万ドルの投資を受けた上、今年の4月には2度目の投資800万ドルを受けていることです。

 実際にYouTubeのサイトに言ってみると、なるほど確かにすさまじい動画数で、もちろん英語のサイトですが日本語で検索してもちゃんとヒットしてきます。世代が分かって笑われてしまいますが、例えば「太陽にほえろ!」なんて検索すると、歴代刑事のイントロ紹介が(しかも御丁寧に全員分ちゃんと編集されて)閲覧できますし、往年のアイドル歌手のザ・ベストテン登場シーンも出てきます。ボルグ選手のテニス練習風景等もアップされており、思わず唸ってしまいました。さすがにこれは無いだろうと思いながら検索しても、必ず何かしらヒットしてくるのです。

 ここまで来ると、なるほど投稿画像配信でそこまで爆発的人気を集めた理由は、要すれば音楽配信のあのナップスターと同じことか、とすぐに気付いてしまいます。ナップスターも世界中に熱狂的ブームを巻き起こしながら、当然のように著作権が問題となり、有料会員制に移行した途端に消え去っていきました。YouTubeも、もちろん動画数自体は各個人が作成したオリジナルな動画、売り出し中の歌手や芸人の宣伝用に自分でアップした画像等が大半なのですが、中にはさすがにどう見ても著作権上アウトな映像がアップされそれが人気に火を付けているわけですから、当初から著作権問題が指摘されていることは容易に想像できますし、実際に問題を起こしています。昨年12月にNBCの人気TV番組がアップされて話題になり、YouTube社はそうした問題のある動画を削除、他にも要請があれば直ぐに削除し、アップできる動画時間も10分以内に制限するといった対応をしてきました。それでも著作権訴訟は時間の問題では、と思っていたところ案の定、ロサンゼルスの有名ジャーナリストが著作権侵害幇助で訴訟を起こしたそうです。

 ということは、YouTubeもナップスターと同じ末路を辿っていって同じかというと、どうもちょっと様子が違うというか腑に落ちない印象も受けます。意外にもTV局は、映像の削除要求はしつつも直接訴訟するという動きが未だ無いこと(NBCは、訴訟どころか同社の宣伝用クリップを配信することでYouTubeと契約を結ぶまでになっています)に加えて、音楽配信でこれほど著作権の扱いが大変であることが十分に知られているにも関わらず、YouTube社にあのセコイアが十数億円もの投資をしていることです。既に様々なサイトやブログで指摘されていますが、YouTubeのサイトは無料な上に広告も無く、少なくとも現時点ではビジネスとしての収入がゼロのはずで、明らかに現在とは違うビジネスモデルが用意されていることは間違いないと思うのですが、現時点ではそれが明らかになっていません。

 いずれにしても、著作権問題は決してなし崩し的解決はあり得ませんが、音楽配信が今となっては完全にビジネスとして確立したように、これだけの爆発的ニーズが動画配信にあるとなれば、いよいよ宝の山のTVコンテンツも何か本格的に始まるかも知れません。フジテレビなどは既に有料配信を始めていますが、とにかく1日でも早く、「懐かしのあのTV名場面」を合法的に堂々と閲覧できるような環境整備を実現して欲しいですし、また、そこにブレークスルーをいち早く見つけた企業が第2のアップルになるのでしょう。YouTubeが最有力候補となるかかどうかは分かりませんが、世の中に新たな鳴動を与えていることは間違いありません。

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