インテルはこの程、アイルランドに65ナノメートルのプロセス技術を用いた最先端の量産チップ工場を正式オープンした。同技術を使う工場は国外では初めて。工費は16億ユーロに上り、オープニングセレモニーには同社のオッテリー二最高経営責任者(CEO)やアイルランドのアハーン首相らが参加した。
【生産拠点のすみ分け】
今回新設された「Fab24ー2」と呼ばれるインテルのアイルランドの新工場は、300ミリウエハー対応で65ナノメートルのプロセス技術を使った世界最先端の量産チップ工場。同技術を使った工場は、これまで米国内のオレゴン州とアリゾナ州の2ヵ所だけで、アイルランドの新工場は国外初となる。他工場は130ナノメートルや90ナノメートルのプロセスなどによる工場で、同社にとっては一世代前の技術の工場と位置付けられている。
インテルの生産拠点の中で、半導体のウエハーに半導体回路を作り込む、いわゆる前工程の工場は、本社のあるシリコンバレーをはじめ、オレゴン州、アリゾナ州、ニューメキシコ州、テキサス州など、全米でも人件費が安く、投資優遇措置の供与など投資誘致に熱心な州に立地している。海外の前工程工場は、イスラエルとアイルランドの2ヵ所だけである。前工程で製造されたウエハーをパッケージに注入する、いわゆる後工程は、マレーシアやフィリピン、中国、コスタリカなどの開発途上国で行っている。
同社がアイルランドに進出したのは89年で、政府の優遇措置や低率の法人税率、低廉で優秀な技術者の確保などを背景としている。また、アイルランドは、知的財産の管理についても行き届いているとされている。このため、IBM、ヒューレット・パッカード(HP)、デル、マイクロソフトなど米国を代表するハイテク企業の多くは、アイルランドに生産工場や研究・開発(R&D)センターなどを設置し、欧州・中東・アフリカへの主要拠点と位置付けている。
【インテルのPR戦略】
インテルの海外拠点開設で興味深いのは、現地政府へのアピール力である。6月21日のオープニングセレモニーでは、アイルランドのバーティ・アハーン首相や、アイルランド政府産業開発庁のショーン・ドーガン長官などの大物を招待し、同社のポール・オッテリーニCEOはしっかりトップ外交を行っている。しかも、その際に、同社とアイルランド政府産業開発庁との間で、同国におけるコンピュータとインターネットの促進に取り組む覚書を締結し、政府やアイルランド国民にインテルの存在感をアピールしている。また、当初は、アイルランド政府から同社の新工場の建設に1億7,000万ユーロの無償援助が出ることになっていたが、無償資金の使途について、EU本部から待ったがかかり、18ヵ月間の審査期間を設けるよう要請があり、結果、同社と政府の間でこの計画を反故とした(05年3月)。
しかし、同社は新工場の建設を既に着工していたこともあり、計画を変更せず、工場を完成させ、インテルがいかにアイルランドでの事業にコミットメントしているかを示した。オープニングセレモニーでは、こうしたインテルの姿勢に配慮してか、アハーン首相は「EUがインテルの開発(投資による地域貢献)を失うのは損失である」、ドーガン長官が「インテルは最近、アリゾナ州とイスラエルに投資を積極的に進めている」などと述べ、前述のEUの判断を間接的に非難した。
現在、同社のアイルランド工場には4,700人の従業員が働いており、同国の多国籍企業の中でも最大級の人員を抱えている。
|