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BaySpo 833号(2006/08/18)掲載 |
世界中の図書をオンラインで
〜UCが大学図書館蔵書のスキャンをグーグルに許可
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 星野 岳穂
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星野 岳穂(ほしの たけお)
1962年生まれ、東京都出身。1987年通商産業省(現 経済産業省)入省、電子機器課、地球環境対策室、航空機武器宇宙産業課、原子力産業課、鉄鋼課等に在任し、主として産業振興、技術開発政策を担当。2004年7月、JETROサンフランシスコに勤務。
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インターネットのおかげで、ちょっとしたキーワード検索でも何十万件、何百万件というヒット数になり、検索したのに逆に情報が溢れすぎ収拾がつかなくなる程に便利になりまた。しかし、インターネットで見ることのできるのは送り手が公開可とした情報だけで、世界中のどんな情報にもアクセスできるわけではありません。今、この当たりの狭間でホットな話題となっているのが、図書館の蔵書情報です。図書館の本はそこに行けば誰にでも無料で閲覧、貸出し可能ですが、オンラインでは本の中身を見ることも検索もできません。もちろんタイトルの検索は可能なのはご存じの通りですが、例えば「シリコンバレー」を調査したいと思っても、それがどの本に詳しく書かれているのかは、タイトルがそれらしい本でない限りは、1冊毎に手に取ってページをめくらなければなりません。
これに対して、最近数年間、図書館の蔵書全ページをデジタル化し検索可能とする動きがあり、様々な議論が巡っています。こうした最近の話題を取り上げようとするといつもグーグルが出てきて恐縮ですが、本件もまたグーグルが火付け役。同社は以前から、全世界の情報の検索を可能にするという壮大な目標を掲げ、その大きな1歩として、図書館の蔵書オンライン化を推進してきました。そして先日8月10日には、カリフォルニア大学(UC)がグーグルに蔵書のデジタルコピーを許可しました。この合意により、カリフォルニア州各地にある10カ所のUCキャンパスにある約100カ所の図書館の全蔵書をグーグルはスキャンして良いことになります。
実は既にグーグルは、これまでに過去2、3年の間にスタンフォード大学をはじめ、ミシガン、ハーバード各大学の図書館、更にはNY公共図書館及び英オックスフォード大学とも膨大な蔵書の全部または一部をデジタルコピーする了解を取り付けており、既にご存じの方も少なくないかと思います。ここまで聞くと、世の中ますます便利になって、図書館に行かなくてもオンラインで自宅でもスタバでもどこでも本が読めるようになるなぁ、と喜んでしまいますが、実は本件を巡っては実は大変な論争や企業間の戦いが繰り広げられているのです。
まず直ぐに思いつくのは、著作権の問題です。図書館は、著作権で保護された書籍を保管し貸し出す役割を持つだけで、複写して配布する権利はありません。当然、グーグルの全書籍デジタル化については、著作権を持つ著者と出版業者が反発し、訴訟を起こしています。特に学術図書出版界は、各書籍の販売数が少ないだけに死活問題だとして猛反発。これを受けグーグルは昨年8月、いったん図書館の電子スキャンを休止していましたが、昨年11月には再開。著作権の切れたり無かったりする書籍を全文オンライン化し、著作権のある書物については公正利用(フェアユース)の範囲での検索結果表示とする等、同社も法的側面には十分配慮して進めるようですが、実はこのフェアユースの問題は法専門家間でも大変な論争となっており結論は出ていません。
そして、並み居るグーグルのライバル企業も黙って見ているはずがありません。ヤフーとマイクロソフトは、NPOのインターネット・アーカイブと共同してOpen Content Alliance(OCA)を設立。これはグーグルに対抗するオープンソースのプロジェクトで、著作権の切れた書籍のみに限定してデジタル化を進め、著作権問題を回避するとともに私企業による書籍情報の独占管理という批判を避ける戦略をとっています。各図書館に、人類の共有財産である蔵書のコンテンツをグーグル1社に独占管理すべきでないと強く訴えかけています。UCは、OCAとも協力関係を結びました。OCA陣であるマイクロソフトは、昨年11月に大英図書館との蔵書電子コピー合意を取り付け、グーグルに風当たりの強い欧州に食い込むことで勢力拡大を図っています。
書籍でオンラインといえば、黙っていないのがアマゾン・ドット・コム。既に始めているSearch Inside the Bookに加えて、新たに書籍をページ単位で有料化してダウンロードできるサービスと、購入した書籍を丸ごとオンラインで読めるサービスを始めると発表。書籍に関して圧倒的に強い同社が出版社等との関係で著作権問題を上手く整理しつつビジネス化していける強みがあります。
しかし、一言で「全書籍電子コピー」といっても、グーグルのプロジェクトで同社が負担するコピー代は数年で数十億円以上。しかも、分厚い六法全書や百科事典など、手作業でコピーしていたら数千年もかかってしまうそうで(しかも分厚い本の開いた真ん中あたりを綺麗にコピーできないのは皆さん経験済みですよね)、ハイテク電子読み取り機でこれを僅か数年で終わらせようというグーグル、凄い企業ですね。書籍も音楽もTVもそうですが、新しいネット時代には、古い著作権法で保護された著作者達が実は一番損をすることになりかねません。逆に、いち早く著作権の新しい枠組みを作れば、日本が最先端のデジタル立国として世界のリーダーになれるでしょうに。 |
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