BaySpo 839号(2006/09/29)掲載
個人向けCO2排出権取引ビジネスが注目
〜社員4人の会社が全米で挑戦…テラパス社〜
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 田中 一史
田中 一史(たなか かずし)
 
東京生まれ。1990年ジェトロ入会。海外調査部アジア大洋州課、マニラ・センター調査部、「世界は今」(日経CNBC等)の番組ディレクターなどを経て、2002年3月、サンフランシスコ・センターに広域産業調査員として着任。


 地球温暖化防止への関心の高まりから、米国でも環境問題を意識する消費者が増えています。サンフランシスコの朝の通勤風景では、バイク(自転車のこと)で通勤するビジネスマンや見知らぬ人同士が自動車を乗車シェアする姿も。行政も、環境に優しく渋滞緩和効果のあるバイク通勤をサポートしており、電車や公共バスにはバイクを固定するラックを標準搭載させ、利便性を良くしています。
 とはいえ、毎日、サンフランシスコは渋滞の嵐である。一般にカリフォルニア州やフロリダ州は環境問題を意識する消費者が多いといわれますが、車社会である同州で、車なしで生活するのは極めて行動が制限されてしまいます。米国ではガソリン価格の上昇も相俟って、一昨年来からハイブリッド車が人気を博していますが、最近、売り上げが思ったように伸びていないようです。その背景には、先進的な環境支持者からの購入が一巡したことや、ガソリン車より購入価格が数千ドル高いハイブリッド車の購入によって、全体の維持コストが安くならないと試算する消費者が増えていることなどが挙げられます。実際問題としては、車の買い替えには多額な費用がかかるのも一因です。でも、環境問題には関心がある。
 そうした消費者心理に目を付けた環境関連ビジネスが話題となっています。サンフランシスコに本社を置くベンチャー企業、テラパス社が手掛けるビジネスで、個人の年間の自動車走行により排出される二酸化炭素(CO2)を計算し、個人がそれに見合った排出権取引額を支払うというもの。取引価格は通常、年間数十ドル程度で、個人がさほど金銭的な負担にならず、環境保全に貢献することができるというわけです。
 そこで、本稿では、同社の創業者兼最高経営責任者(CEO)のトム・アーノルド氏に会社のビジョンや今後の課題についてインタビューを行いました。

【大学教授のアイデアから生まれたビジネス】
問:ビジネス・アイデアはどこから生まれたか。
答:私がペンシルバニア大学のウォートン校に通っていた時の教授がテラパスの提唱者である。彼は、環境保全主義者で、毎日片道8マイルをかけてバイク通勤していた。しかし、彼は同時にキャビンを修復するために、建材を運ぶためのトラックを運転していた。そこで、自分が排出したCO2を相殺するために何か出来ないかを考えたところ、当時はCO2の排出権取引は卸売市場に限られており、1,000〜2,000ドル以下の取引は難しかった。そこで、すべての米国人に受け入られ、理解しやすい形のCO2排出権取引が出来ないか模索したのが始まりである。

【起業家になりたい】
問:なぜ、あなたが創業者になったのか?
答:気候変動の問題は、リサイクルと同じように米国人の考えを大きく変えるインパクトを持っている。私たちのクラスは41名であったが、先生は私たちに対して、5,000ドルの小切手をあげるから、すべての米国人に受け入れられる個人向けのCO2排出権取引ビジネスを創ってみろと勧めた。私は、これは非常に面白いアイデアと思い、必死になってビジネス・モデルを構築したのが起業のきっかけである。実は、私自身は常に起業家になりたいと思っていた。テラパスとの出会いは、そんな私がちょうど起業家になるためのよい機会であった。

【インターネットでPR】
問:テラパスは全米レベルではまだまだ普及していないようだが・・・
答:多くの人々は環境問題に関心あるのはカリフォルニア州民だと考えがちだが、テラパスの購入者は、全米に散らばっており、テキサス州やネブラスカ州など全米中に顧客がいる。現在、テラパスの購入者は6,000人以上。マーケティング手法は、インターネットを使い、弊社のPRを行っている。「気候変動」などのキーワード検索で、弊社のウエブサイトに辿り付く。当サイトにきた50%のユーザーは、車の年間CO2排出量を計算している。また、環境関連のブログを通じて弊社を知る顧客も多い。

【営利ビジネスを選択した理由】
問:なぜ、民間形態でビジネスを進めるのか?
答:ソーシャル・アントレプレナーシップ(社会貢献事業創出)については米国でも営利か非営利で運営すべきかといった議論が盛んである。私は次の2点で民間形態を選択した。1つは資金アクセスの良さ。通常、財団では12〜18ヵ月のサイクルで資金調達するが、弊社の場合は、シーズ・マネーが3週間、シリーズAの資金調達も3週間という短期間で、事業資金を集めた。2点目はリスクに対する考え方。私は投資家に還元するためにしっかり利益を出したいと考えている。

【売り上げの一部をクリーン・エネルギーに投資】
問:売り上げの何%が実際にCO2排出権取引に使われるのか?
答:個人が購入したテラパスの売り上げの何%が自動的にクリーン・エネルギー・プロジェクトに使われるわけではない。現在、風力発電事業やバイオマス事業などへの投資を通じ、1億200万ポンド相当のCO2排出と相殺させている。また、売り上げは、従業員の人件費やマーケティング費用にも使われ、利益を出すまでに至っていない。

【認知度の向上が課題】
問:今後の課題は
答:認知度の向上とブランディング。消費者への認知度はステップ・バイ・ステップに確実に向上させていきたい。また、将来的にはカナダや日本でも事業展開がしたい。

【会社概要】
社名:TerraPass Inc.
所在地:カリフォル二ア州サンフランシスコ市
設立:2005年5月
従業員数:4人
ホームページ:http://www.terrapass.com

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